五話 親玉
連絡を入れたウィルマは男と一緒に例の場所へと転移魔法が付与されている道具を使用し向かった。まばゆい光がおさまり現地へ着くとウィルマは思わず息を吞んだ。
面前に広がる地帯のみ邪悪な霧が支配し、悍ましい気配が遠くにいるこちらまで痛いほど感じるのだ。男の話の通り、霧や気配にやられた仲間達は他の者達によって回復魔法を受けている状態だ。奥から真っ黒の煤のような魔物が湧き出るように表れウィルマ達を覆い囲むようにいる。仲間達は戦っているが数が多すぎてらちが明かない状態でもある。ウィルマの姿に気が付いた部隊の一人が安心したかのように声をかけた。
「よく来てくれたウィルマ。見ての通りこの有様なんだ」
どうにかしてほしいと言わんばかりに疲労を滲ませる部隊の一人。そう話してる最中にも魔物はウィルマの方へ襲い掛かれば軽やかに避ける。両手から魔法で双剣を出すと、次々に襲い掛かる魔物達を華麗に斬り付け倒していく。見事な剣さばきに思わず見惚れる人達。彼女が双剣を振るうたび、刃にまとう魔法の氷が反応し魔物を氷漬けにする。そして一刀両断しあっという間に倒していくのだ。
周囲から「すげぇ!」と歓声があがる。取り囲まれていたがウィルマの活躍により魔物が少なくなり自分達も負けてはいられないと仲間達は再び戦い始めた。
「アイス・ニードル」
ウィルマは片手の剣を魔物に向ければ空中から幾つもの鋭い氷が現れ魔物を貫いた。またしても魔物が襲うが鋭い氷に阻まれ魔物は消えていく。遠距離では魔法を、近距離では双剣で戦うウィルマ。攻撃しながらも原因である霧の方へ徐々に近づく。
突然地鳴りがし始めると大地が揺れ始める。立ってられるのもままならない揺れにどよめきが起こると一人の男が「あれを見ろ!」と指差した。煤の魔物が一か所に集まり始め形を形成する。邪悪な気が充満すると人型になり、巨人の魔物として合体した。
黒く大きく巨大な魔物。天を仰ぐほどの大きさに全員が驚愕に動けない。ウィルマさえも見たこともない魔物に驚いている。巨人の魔物は耳をつんざくような咆哮を上げると命が宿ったように真っ赤な双眸が出現する。そしてゆらりと動けば大きな大きな腕を振り回し始め攻撃を仕掛けてきた。木々をなぎ倒し地面さえも軽々とえぐる腕力。仲間達は魔法壁を張り防御したり、魔法を放ち応戦する。しかし魔法壁は粉々に粉砕され、魔法は当たっても形成している魔物が消滅するだけですぐに再生される。
「ブリザード」
ウィルマは広範囲魔法を唱え少しでも魔物の動きを止めようとする。吹雪が魔物の動きを鈍くさせ終いには片膝をつかせることまでできた。
「今のうちだ!」
部隊の一人が声を上げれば皆が一斉に魔法を放つ。四方八方から魔法が飛び交い砂煙が舞うと完全に魔物の動きが止まった。魔法が止み砂煙が収まるのを待っていた瞬間、真っ赤な魔物の目が光り辺りにいた仲間達が次々に吹き飛ばされたのだ。形成していた魔物達が分離し仲間達を再び襲い始める。片腕が無い巨人の魔物は更に凶悪化し暴れ始めたのだ。
ウィルマは分離した魔物を避け向かってくるのをたたき切り巨人の魔物へと近づく。双剣に力を入れると舞うように上に斬りつけ飛び上がる。背後へと回り攻撃を加えようとした瞬間、後ろを向いていたはずの真っ赤な目が現れ鈍く光った。
【エラバレシモノカンジル】
「っ!」
無機質でノイズが混じったような魔物の声にウィルマは酷く狼狽えた。真横から真横の腕が振られウィルマは上手に防ぐと一回転し地に降り立った。不気味な声を発した魔物は再び大きな腕をあげると、手のひらから魔物達が解体され放射状に無数の魔物達が放たれた。近くや遠く、または空の彼方まで魔物達が放射状に放たれてしまった。
「まずい! 魔物達が無差別に放たれた!!」
「全域に魔物が行ったぞ!!」
慌てふためく仲間達だが周囲の魔物達に行く手を拒まれる。焦りを見せ魔物達を倒し続けるウィルマだが脳内に巨人の魔物の言葉が木霊するように残っていた。
(選ばれし者感じる?)
巨人の魔物ははっきりとこちらを認識しそう言った。自分には身に覚えのない言葉だ。なぜ魔物はそう言ったのだろうか。そして何かを探すかのように放たれた魔物。今も探すように手のひらから魔物達が放たれ続けている。
【……ミツケタ】
ふいに聞こえた魔物の声。声と同時にあちこちに放たれていた魔物達はある方角へ全て向かい始めた。そこは妹シルフィが待つ家の方角だった。
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