四話 魔法が使えない少女

 その後、シルフィは嘘のように元気になり自室に戻った。一人になったウィルマはリビングに残りため息をはいた。魔法の話しはシルフィが気に病まないように話題に上げないように気を使っていた。だが姉の手紙に何か書いてあったのか。


『ウィルマ。貴方には本当に迷惑をかけてごめんね。私が故郷から離れて十数年、私と親代わりに愛情を決めて育ててくれてありがとう。こっちの状況は思ったより酷い状況で魔物が増え、被害が多数出ている状況よ。一般民にも被害が出て抑えきれない地域も多い』


 姉の手紙には予想以上の被害状況にウィルマは片手で顔を覆う。今までは魔物の数が少なく、力も弱かったため難なくと討伐してきたが、ここ数年とてつもない速さで凶悪さが増している。


『最近、極めて凶悪な魔物の出ている状態で討伐部隊も精鋭部隊もかなり手こずっている。そっちの地域にはまだ影響が少ないはずだと思っていたけど、南側で嫌な気配があるらしいわね』


 さっきの男の話しだ。ミュリエルの耳まで入っているということは本部にすでに連絡済みということ。


『こっちまで情報が入っているけど様子見という指示だからこっちは動けそうにないわ。ごめんなさい。いつも頼ってしまって。もしかしたら”そろそろかも”しれないの。あの子を守れるのはウィルマ、貴方しかいない。時が来るまで、お願い。私の最愛の妹達、ウィルマ、シルフィ』


 被害が拡大。部隊も困難。遥かに酷い状況に頭を抱える。各地で魔物の勢いが止まらない。もしかしたらこっちに来るのも時間の問題ではないのか。


 弾かれるようにウィルマは椅子から立ち上がると窓を開け、人差し指を立て息を吹きかけると煌く氷の粒が宙に舞い消え去った。男と連絡を入れたウィルマはシルフィがいる自室へ向かう。




「シルフィ」


 ウィルマは扉をノックするが中から返答がない。暫くしてウィルマは扉を開け中に入るとベットの上にすやすやと寝息を立ているシルフィの姿があった。大好物とケーキに大量に平らげたシルフィは満腹で眠気に勝てず横なったのだ。


「…もう、食べ、られな、い」


 むにゃむにゃと寝言言うシルフィにウィルマは思わず吹き出してしまった。眠っている中でも食べ物のばかりなのかと。


(ほんとしょうがないなぁ)


 さっきまでの絶望にも似たどうしようもない気持ちから、夢の中で食べ物にまみれになっているのか幸せそうな寝顔の妹に気がどことなく軽くなった。これから未知のところに行くと決め覚悟を決めたのに、姉の苦悩を知らず無防備に寝る妹にウィルマは力が抜けたように肩を落とした。


(このまま平和に)


 そうなるには”シルフィ”を守らなければならない。姉の手紙からも見えた希望を潰させないために。静かに眠るシルフィの頭を撫でたウィルマは意を決する。


「行ってくる」


 ドアが閉まる控えめの音が無音の部屋に響く。部屋から遠のく姉の足音をいつの間にか目を開いていたシルフィは唇を噛みしめていた。何でもない日常的な言葉なのに、姉の言葉にどこか別れを感じ胸がザワリと鳴った。

 

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