三話 魔法が使えない少女
農村地帯外れの丘の上にシルフィ達の家がある。ようやく戻ってきた二人は昼食準備をしている。料理が苦手なシルフィは姉にあれこれ言われながら食材を切り、手早く進めるウィルマは次々とこなしていく。
切るだけで苦戦しているシルフィだがいつもより料理が豪華な事に気が付くが、疑問を言うことはなく目の前の作業に一生懸命にやっていた。
そして少し遅い昼食が出来上がり食卓に並べばシルフィは目を輝かせ「うわぁ!」と感嘆の声をあげた。
それはシルフィの大好物の料理が並んでいる。そしてウィルマは大きなホールケーキを冷蔵庫から出しテーブルへ置いた。
「美味しそう! やったぁケーキもある!」
飛び跳ねそうなほど喜ぶシルフィ。目の前に並ぶ料理に「うわぁうわぁ!」と目移りするシルフィだったが顔を傾げ始めた。今日は何で豪華なのだろうとそして大きなケーキまであるのか。シルフィはうーんと考え悩むがウィルマの言葉にハッとすることになる。
「今日はお前の誕生日だろう」
すっかり忘れていたシルフィは姉に言われようやく思い出したのだ。「あっ!!」とシルフィは思い出せばウィルマはクスりと笑った。
「シルフィ。17歳の誕生日おめでとう」
するとウィルマは指を鳴らすと自身の魔法で空気中に輝く氷の結晶をいくつも作り出し演出をする。それは毎年恒例となる姉からの一つの贈り物でもある。
「ありがとう。ウィル姉ちゃん大好き!」
シルフィは嬉しさのあまりウィルマに抱き着き喜びを表現する。これもいつものことなのかウィルマは「はいはい」と妹の喜びを受け止める。
「今年もウィル姉ちゃんに祝ってもらえて嬉しい」
満面の笑みでシルフィは言うと上から降ってきたウィルマの声に驚くことになる。
「姉さんからも手紙来てるよ」
「えっお姉ちゃんから!?」
更にはじける笑顔を見せたシルフィはウィルマから長女ミュリエルからの手紙を受け取る。嬉しさに大慌てで手紙を開くと
『シルフィ。お元気ですか。17歳の誕生日おめでとう。いつも特別な日に一緒にお祝いできなくてごめんなさい。貴方が元気で過ごしていること、成長していること、ウィルマから聞いていてとても嬉しく思っています。私は転勤であちこち移住をし任務をこなしています。時には危険な任務もあるけどシルフィ、ウィルマのことを想えば何てことありません」
「ふふ、久々のお姉ちゃんからの手紙だ」
家を離れてしまっている姉からの手紙に幸せそうにほほを緩ませる。
ミュリエルはシルフィがまだ4歳の時、上からの命令で10歳の若さで部隊へ配属となった。彼女もまた類まれなる力を持っており、戦力へ迎え入れたいと思った上はほぼ強制的に部隊へ入隊させられたのだ。
『シルフィ。毎日が楽しいですか?風邪をひいてはないですか? ウィルマが私の代わりにあなたを守っているので大丈夫かとは思いますが、私は心配です』
今まで風邪の「か」の文字もないくらい元気に過ごしてきたシルフィは含み笑いをし「大丈夫だよ、お姉ちゃん。元気だよ」と呟く。
『今日からまたかけがえのない、宝物と思えるような事がたくさん起きるでしょう。忘れないで、いつも笑顔でいること。時に思いが力に変わること。私は遠い地でいつまでも二人のことを見守っています。
P.S まだ魔法が使えなくても落ち込まないで。いつか必ず大きな力が目覚めるから』
手紙を読み終えたシルフィは丁寧に封筒に入れると大事そうに胸に抱える。特別な日の度にミュリエルは手紙を出し、二人との繋がりを保っている。特にシルフィはミュリエルの事を覚えていないため毎年送られてくる手紙が唯一の繋がりだった。
「ウィル姉ちゃん、私そろそろ魔法使えるようになるかな」
「かもな」
「もう17歳になったんだもん……でもこのまま魔法使えないとか、あるかな」
元気な声色が徐々に弱弱しくなる。元気が取り柄のシルフィだが一つだけ引っ掛かりがある。ウィルマはシルフィの様子に我に返りすぐさま「そんなことはない」と強く言う。魔法の件についてだ。
「私と姉さんの妹なんだから」
「でも、」
「大丈夫だから」
不安が渦巻いてしまう。生まれてから魔法が使えないシルフィは自分がおかしいのではないか。周囲と違う異質なのではと思えば思うほど落ちていく感覚に陥る。その度にウィルマは励まし支えるが心のどこかで責める自分がいた。
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