ニ話 魔法が使えない少女

 稽古を終えたシルフィ達は家へと戻るため森を抜け歩き続ける。のどかな農村地帯には汗水をたらし働く一族達の姿があちこちで見かける。


「シルフィ! 姉ちゃんに一本取ったかい?」


 2人の姿を見かけた男は大声で声をかければシルフィは走り寄り肩を落とす素振りを見せる。


「当たらなかった」


「はっはっは。今日も駄目だったんだな」


 すでに分かっていた結果なのか男は愉快そうに笑う。予想していたとばかりに笑う男に顔を膨らませたシルフィは話し始める。


「でも惜しかったんだよ。バッてやってガッとやったら隙が見えたからえいって。でもウィル姉ちゃん後ろの大岩使って飛んじゃって」


 惜しかったらしい状況をシルフィは身振り手振りで表現するが男はさっぱり理解していない。彼女のうるさくも楽しそうな声に「また勝てなかったんだな」「ふふ、相変わらずね」と村の人達は作業を止め輪に入る。


「何言ってるか分からねぇけどまだまだだな!」


「次! 次こそは絶対に当てるから」


「頑張ってねシルフィ」


「俺たちが死ぬ前に勝ってくれよな」


「すぐ勝つから!!」


 目に闘志を燃やし気合を入れるシルフィ。負けず嫌いなシルフィは悔しながら今度こそはと沸々と意気込みを燃やしている。村人達はからかいながらも成長を楽しみにしていた。



その様子を遠くから見つめているウィルマは「いつになるんだか」と呆れながらも微笑ましく見守っていた。


「ウィルマ、ちょっといいか?」


 突然後ろから男の声が聞こえウィルマは振り向く。顔見知りの男だった。再びシルフィの様子を窺えば、まだ村の人達と会話に夢中な様子。気づかれないようにその場を離れたウィルマと男は声を潜める。


「領域の南側に不気味な気配がある場所があるそうだ」


「気配?」


「あぁ。捜索隊によるとその辺り一辺、真っ黒な霧みたいなものが漂っていて悍ましい不気味な気配を感じたらしい」


「正体は分かったのか?」


「いや、分からない。奥に進めば進むほど隊員達の体に異変が起き捜索ができなくなるんだ」


 男の説明にウィルマは眉を顰める。どういうことだと言わんばかりにウィルマの切れ長の目に力が入る。


「異変って?」


「霧なのか気配のせいなのか分からないが途端に苦しみもがき始めるんだ。人によっては仲間を襲う奴らもいて」


 ウィルマは顔をしかめる。謎の霧と気配。体の異変。魔物の影響もあるかもしれない。いち早く対処しなければならない。一族達、シルフィを守るため危険な芽は早めにつぶした方が良さそうだと考えたウィルマ。


「私もそこへ向かおう」


「有難い。ウィルマが来てくれれば百人力だ。だがお前でも十分気を付けた方が良い。今までにない事例だからな」


「分かってる」


 魔物が滅多に出ない理由。それは陰ながらに討伐し領域内の平和を守る部隊の存在が大きい。魔導士でありながらも争いごとを好まない種族が多い水と氷の領域は、力が強い者、または志願者で結成された討伐部隊が結成されている。その部隊が日々、魔物を倒し平和を守っていた。


 一族の中で凄腕の力を持つウィルマも部隊に所属している。


「そうと分かれば今からでも」


「……いや。少し後からにしてほしい」


 状況を早く見てほしい男は催促するがウィルマは男から視線を外す。

 いつもならすぐにでも現場に向かうウィルマだが今回は何やら動きが遅い。


「何かあるのか?」


 男は珍しいウィルマの返答に目を丸くするが彼女は無言のまま。そういえば後ろに妹、シルフィがいることに今更だが気が付けば「なるほど」と男は表情を柔らかくする。


「いつでも良い。連絡をくれ。あぁそうだ、忘れるところだった」


 男はおもむろに取り出すと二通の手紙をウィルマに渡す。


「じゃあな。連絡待ってる」


 男は一言告げるとその場から離れていった。張りつめていた空気が無くなり一つ息を吐くウィルマは渡された手紙を見やる。シルフィとウィルマの姉、長女ミュリエルからだ。


(……状況がだいぶ悪いのか)


「ウィル姉ちゃんどうしたの?」


 視界にシルフィの顔が映り込んだウィルマは驚く。すでにシルフィは村人達と別れこちらに戻っていた。ウィルマは何事もなかったかのように表情を切り替える。


「何でもない。帰ろうか」


「うん!」

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