Destiny of the War

瑞玉

第一部 過酷な宿命

第一章 力と宿命

一話 魔法が使えない少女

 燦々と太陽の日が降り注ぐ。陽光を反射させる海を大半持ち少ない陸地を所有する北大陸の領域『グァン』。陽光がキラキラと水面を光らせる海の中は地上と同じ文明が栄え、陸地にも水、氷の種族の魔導師が住んでいた。


 領地内の陸地に存在する『神秘の湖 ロト・ラージ』は領域内屈指の透明度を誇る湖だ。その湖の中や周辺には争いごとを好まない穏やかな水の魔導士、ミルファ族が住み着いていた。

 

 大きな破壊音と共に地面が揺れ、樹木に止まっていた水鳥達が一斉に飛び立っていった。普通なら動揺しパニックにもなりえる状況だが、村の人々は何か察したのか、それとも分かっているのかまたいつもの日常に戻る。クワを手に持つ男は苦笑しながら口を開いた。


「あーあ。またやってるねぇ」


「元気だよね。毎日毎日」


 男と一緒に畑を耕していた女も汗をぬぐいながら音がした方を見やる。聞きなれた衝撃音なのか原因が分かっている男女。慣れているのは二人だけではない。村の人達全員が散々さっきの音を聞いているからか誰一人パニックにならないのだ。


「そろそろ一本取ったんじゃね?」


「馬鹿力な妹ちゃんだけどさすがにまだでしょ」


「だよなぁ相手は強すぎるし。じゃあ俺たちが死ぬまで続くかもな」


「さすがにそこまでは」


 意地悪く話す男に肩をすくめる女は再び作業を始める。


「まぁ物好きだよな。あの二人。めったに魔物が出ないのに。稽古してるとか」


「そうね。でもあの姉妹達はちょっと変わってるから」


 穏やかであまり好戦的ではない種族だからか一族はみなのんびりしている。だからか日々稽古をしているある姉妹達を変わり者という目で見ていた。



***


 村から少し離れた森の中。水鳥たちが飛び立った木々から開けたところに二人がいた。真ん中には背を優に超える岩石が何者かによって粉砕されたのか無残な姿となっている。その犯人と思われる少女は、自分の背丈ほどある槍を構え相手を捉える。鮮やかな水色の大きな瞳が目の前に佇む相手を睨むと、岩石を槍で破壊した馬鹿力な少女は地を蹴り出した。


「はぁああっ!!」


 槍を振りかざし勇ましい声を上げた少女は相手に向かい槍を突き刺したが相手は軽やかに避け槍は空を突く形になる。高速で避けた相手はすぐさま少女の近くに現れる。それに気がついた少女はそのまま槍を薙ぎ払うが、相手はまたしても避ける。回避した相手は素早く少女の手を叩き槍を落とす。


「あっ!」


 無防備となった少女はあっけなく相手に足払いされ尻もちを着く。落とされた武器を持とうと近くに落ちた槍に手を伸ばす。しかし少女の手が止まる。地面に映る人影に動きが止まってしまった。


 いつの間にか相手は少女の目の前に立っていた。一歩近づかれた少女は飛びのくと肉弾戦へと誘うように身構える。それに気が付いた相手も応じるように少女の動きを待つ。素早く相手へ移動すると力が乗った拳を突き出すがサラリとかわされる。すぐさま次の拳を繰り出すが易々と避けられる。


力が乗った拳は風を切りながら相手を襲うが一度も当たることもない。隙を見て蹴りも入れるが見破っていたのか飛んで距離を置かれる。なぜ一発も当てられないのか、少女は焦りと苛立ちに動きが悪くなってきた。


「良く見ろ」


「え、あっ!」


 気が付けば少女は相手に倒され視線は見下ろされている相手と止まった。あっという間すぎて何が何だか分からない少女、シルフィは体を起こしながら膨れっ面になった。


「ウィル姉ちゃん強すぎ!」


 今日までで何回言っただろうか。おなじみの光景に耳に胼胝ができるくらい言われたセリフ。不服そうな妹を目の前にウィル姉と言われた相手、ウィルマは深い群青の切れ長の目を更に細める。


「そのセリフ何回目?」


「だってぇずるいよ強すぎだよ」


「何がずるいの」


「いろいろ!」


 ウィルマの妹、シルフィは悔しさに手足をバタつかせるその様子に「はいはい」といつものように受け流すと妹を立たせようと手を伸ばす。じとっとした目でシルフィはウィルマを睨むと伸ばされた手を掴む。立たせてもらうとスカートについた土を払う。


「まったく、馬鹿力なんだから」


 ウィルマは横目で破壊された岩石を見つめる。姉の視線を辿るとシルフィが槍のみで破壊した岩石が無様な姿となっている。


「えへへ、つい力入っちゃって」


 頭を掻きながら言うシルフィは笑いながらごまかす。華奢な体つきからは想像できないほどの怪力の持ち主だ。それは姉のウィルマは昔から良く頻繁に何でも破壊したシルフィを間近で見ていた為、彼女の怪力は良く良く知っている。恐らく力では一族で最強だろう。


 じんわりと汗ばみ、ウィルマはふと眩しそうに天を見上げる。朝食を終えてからすぐさまシルフィの鍛錬に入っていた。今はお昼頃だろう。


「そろそろ昼だ」


「え!? まだウィル姉ちゃんに勝ててないよ!」


「いつになると思ってるの」


「絶対次勝から!」


「空腹なんだろ?」


 姉に言われ答えるかのようにシルフィから大きな腹の音が鳴り出す。激しく動いたからか気が付けば腹減り状態。シルフィは恥ずかしそうに笑い少々呆れたように肩を落とす姉。


「あーお腹減った!」


「帰ろうか」


「うん!」


 太陽のように明るく笑うシルフィは大きく頷く。屈託なく笑みを向ける妹にウィルマは頬を緩ませた。

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