男の懺悔

17.罪への懺悔

 未来が見えると言った男は驚きに言葉を失う天使を他所に、話を続けた。



「どんなに未来というページをめくり続けても、私は当然のように生きていた。どうすれば私が死ぬという理想の未来を築けるかを模索した結果、運命を操り歪めるという方法に行きつきました」



 未来を変える。それは、常人になせる業ではない。

 人は運命や必然の中で生き、時に自らの力で未来を変化させ、奇跡を起こす生き物だ。そんな未来を自身の理想の為に都合よく操ることなど、神のような人外の者にしか成しえない御業だ。



「私は私が死ねる未来を欲し、そのために多くの人間を不幸にしてきました。その犠牲から目を逸らさず、ここまで歩んで参りました」



男は涙を流していた。

 その涙が二人の足元に広がる広大なしろい雲に落ちると、僅かな黄金の光を生んだ。その純真な涙の色から、男が真の悪人ではないことが天使にも理解できた。

 男の胸に手を当て、天使は心を見た。欲の為に人を不幸に陥れて来たことを許すまいと、男自身が抱いている罪の意識が心を深く切り裂く音が絶え間なく響いている。

 男は死という理想に近づくことが、誰かの未来を踏みにじることだということを理解していた。一つずつ増やした罪を背負いながら、男はやっとここに辿り着いたのだ。

 形を保つことがやっとである心を取りこぼさないように大切に抱えながら、他人も自分も傷つけてまで死を求めた男。この男はどうしてそうしてまで苦しめられなければならなかったのだろう。男に何の罪があって、他と違う生を歩むことになってしまったのだろう。



「これでやっと死ぬことができる。私のような存在があるから、未来が歪むのです。天使様、さあ早く」



 首を捧げるように両手を広げ自戒に苦しむ男の頬に手を添え、天使は困ったように微苦笑する。



「それを決めるには、貴方がどのようにして天使の前に跪くことが出来たのかをお話しいただけますか」



 天使が男に求めたのは、男がここに至るために行った罪への懺悔だった。

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