男の懺悔
13.不老不死の男
男は死ぬことが出来なかった。
不老不死の身体は瑞々しい若さを保っていたが、この世の道理を悟ったような聡い雰囲気を纏っていた。
言葉にしがたい神秘めいた揺らぎを持つ淡青色の瞳には天使が映って、より一層その美しさを際立たせている。
「私は心臓を貫かれようとも、渓谷に身を投じようとも死ぬことが出来ませんでした。ただ激しい痛みが、時が止まりそうなほどの長い時間をかけて回復するのを待つだけ」
それを証明するように、持っていた短剣を首に突き立ててみせる。いくら血管が切れようとも、とめどなく血が流れ出ようとも彼は一向に死ぬ気配がない。
「なぜ天使が貴方に死を迎えさせることが出来るとお考えになったのですか」
己を自嘲するように失笑すると、男は静かにその理由を口にした。
「私は自然の一部として生まれました。太陽のあまりに強い陽光が炎となって焼かれた肥沃な地で、虹の虹彩を浴び育った新芽の葉から零れ落ちた雨粒から私は誕生したのです」
男は自分の存在そのものを説明するように、天使へ語り続けた。
「姿見が似ている人間に紛れて暮らす私は後に、自分に死という概念がないことを知りました。その時には既に長い年月を生きて来た私にとって、死は魅力的に思えました」
「それは…なぜですか」
「どんなに深手でも必ず癒える傷の回復に苦しむこともなく、歳を取らないことで人々に怪しまれる生き難さもなく、死という終わりがある中で人生を豊かにしようとするその力強くも必ず完結する儚い命を持てることが羨ましかった」
男はどこを見るわけでもなく、これまで生きて来た過去に思いを馳せているような遠い目をしていた。
虚ろな目にはそれでも執念深く天使が映っている。
「どうにかして死を手に入れたいと考え、生まれ持った特別な才能を用いて解決出来る確実な策を練り上げました」
「その才能というのは一体…」
男はこともなげに述べる。
「未来を知ることです」
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