10.第一王子の企み
「母上が亡くなってからというもの、この国では父上の影響で神への信仰がある。とは言っても、元々そのような慣習がなかったこの国の民は、急に信仰を求められても困惑する一方だ」
舞う羽を煩わしそうに手で払いながら、進む足を止めずにラシーヌは続ける。
「目に見えず、説得力のないそれをどうにかして信仰してもらいたいというのが父の思いだ。そうすれば母上も報われると」
一層声を上げて鳴き道を塞いだのは、全身に白く短い羽を生やした二足歩行の何か。そのあまりの悍ましさに身動きが取れなくなっていたナスタチウムに代わり、ラシーヌが腰に差していた鞘から剣を抜き容赦なく振り下ろす。
ラシーヌは王族の中でも珍しい、武力を手にした男だった。
「嗚呼、ラシーヌ様」
ジョンキーユの残念そうな笑い混じりの嘆きに、ラシーヌは「これは試作品だ。一匹減ろうが問題ない」と顔色一つ変えずに答えた。
寸刻で屍と化したそれを踏みつけながら彼は肩越しに振り返る。
「しかし、連れ去られた母上の無事を祈るばかりで武力を以て助けに向かおうとはしなかった父上の甘ったれた考えが、私は反吐が出るほど嫌いだ。助けに行こうとした私や騎士たちを「お前たちまで失いたくない」からと権力を以て戦いに出させてくれなかったことも赦してはいない」
彼は頭を垂れる研究者があけた道を通り、玉座とはまた異なった厳格で恐々とした椅子に腰かけ「でも」とつけ加えた。
ここにはキメラと称された鳴き叫ぶ生き物も侵入出来ないらしい。ジョンキーユに倣いナスタチウムも王子と向き合うように佇んだ。
「いずれ私は国王になる。しかし私は父よりも支持者が少ない。武力も持つ例外的な王族である上に、母を失った父の方針で王の肉親はあまり外出させてもらえず、国民にとって馴染みのない存在になってしまっているからだ」
嘆かわしいといったような口調で、ラシーヌはさも悲しむような素振りで目を細めた。
「だが国王が交代する際に国民の心が離れれば、新しい王に馴染むまでそこに不和が生じ、敵国に攻め入る隙を与えてしまう。それは何としてでも避けたい。そこで、だ」
ラシーヌは脚を組みなおし、続けた。
「戴冠式より前から国民を偶像崇拝によって一つにするという準備を整え、その崇拝の矛先を徐々にこの私へと移行させようと考えた。そうすれば国王が交代しても国民は直ぐに私という王に順応する。何せ崇拝しているのだからね」
「あの、申し訳ありません。今のお話とキメラとの関連性が俺にはよくわからないのですが…」
要領を得ずにいるナスタチウムに、ラシーヌは焦らすように説明を続けた。
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