若き騎士

2.それぞれの役目

 この国は、騎士によって守られている。

 温厚な性格の王の意に反し、この国は争いの絶えない国であった。

 広大な面積を誇るこの国には、自然の恵みが豊富で経済状況も潤っている。

 地形も海に面していることで、他国との行き来の中継地点となるため様々な文化に富み、新しい物が生み出される国でもあった。周囲は山々に囲まれており、陸続きの多国に侵略されにくい地形ともいえる。国の位置する場所が谷でないことで、逃げ道はいくらでもある上に、応戦する際の作戦の幅が広かった。物資が絶えることもなく、戦争に有利な国だった。

 恵まれた土地で裕福な暮らしをしてきた王族には心にも余裕があり、争いごとを好まない者が多かった。彼らは話し合いや貿易で話をつけ、是が非でも武器を取らなかった。

 王族は皆国民を愛していた。時には多国の者にさえ、慈悲の心を持って接していた。他国が干ばつに苦しんでいる時には、率先して物資を送り、住む家がなくなった者にはしばらくの間、自国の土地を分け住まわせていた。

 しかしある時を境にその愛は自国の民に限るようになった。現国王の王妃が、他国の参謀によって殺されたからだ。他国からの裏切りは王族の逆鱗に触れ、その後一切多国への慈悲はなくなった。

 それからというもの、話し合いで収められていた火種はいとも簡単に武力のぶつかり合いへと発展した。

 武器を持たなかった武力なき王族の代わりに武器を取ったのは、国民の勇気ある若者たちであった。幼さの残る彼らは、柔らかなその手に慣れない武器を持ち、命令も下されぬまま率先して王族と国民を守り抜いてみせた。

 大きな争いで生き残り国を守り抜いた名誉という力を得た若者たちだが、王族に反旗を翻したことは一度もなかった。

 この国に長らくの間安寧をもたらし、自分たちのような者が赤ん坊から誰かを守れる存在になることが出来るまで、健康に成長させてくれたことへの恩返しだと若者たちはきっぱりと断言した。だから力を得たからといって王に歯向かうなどといった恐ろしいことは、考えたこともないと笑って言った。

 若者たちの誰もが、国民に分け隔てなく接し、国も恵みを独占せずに人々に分け与える広い心を持ち合わせた国王を、二人目の父親のように尊敬し慕っていた。

 今まで王が国と国民の暮らしを守ってくれていたのだから、王族の力が及ばない武力は国民である自分たちが補おうではないか。そのような強い志を持って立ち上がり、見事勝利を掲げた若者たちに王は敬意を表した。

 王族と共に国を守っていく国の武力として、彼らに「騎士」という称号が与えられた。

 この国に生きる人々の名を多国の武力から守り抜くことを使命に、騎士は今でも王族と国民の双方から信頼される存在となっていた。

 騎士になった者は、王族の暮らしているグランシャリオ城の敷地内にあるブクリエと呼ばれる騎士専用の寮に住むことを赦された。

 国の民である子ども達にとって、騎士になることは誇りでありこれ以上ないほどの名誉あることだった。

 それからというもの、国をより良いものへするべく奮闘するのが王族の役目、国に住む人々の命を守ることが騎士の役目となり、両者は固い結束で繋がり国を守り続けた。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る