第10話 父の娘
🏰
エリオス殿下は
「魔力の親和性が高い君となら共同魔法が試せるし、学年でも指折りの成績の君となら、既存にはない魔法を構築する研究に取り組めると思うんだ。それに、わたしは多くの魔法を使えるけれど、精霊魔法は詳しくない。よければ、教えてくれないかな」
一般的に、人の使う魔法は、厳密には魔術である。
精霊たちの営む『
私達アァルトネン一族が宮廷でも各地でも重宝されているのは、直接精霊たちに働きかけ、その奇蹟の魔法を使えるから。
それは、王族でも使える人は、過去にいなかったとは言わないが、現状ほぼいない。
精霊たちに守護されていても、属性魔法が多少強化されるとか、同一属性の魔法が上達しやすいとか、ちょっとした加護がある程度。
アァルトネン家のように、精霊がまるで屋敷の防衛システムのように警備していたり、領地を守るドームのような魔法障壁が常にかかっていたりするような便利なものではない。
精霊が直接手を貸すのは、太古に精霊王とアァルトネン創始者との盟約があり、初代アァルトネン公爵以降の子孫達が、精霊たちに好かれる魔力質と魂・霊気を持った血族だから。
私と魔力の親和性が高く、魔力譲渡して馴染むのなら、殿下の霊気や魔力質も、精霊好みの可能性は少なくない。
もしかしたら、守護精霊を通じて精霊たちと契約できる可能性も⋯⋯
「そうなんだね。ぜひ、わたしに指導して欲しい。
学園を卒業したら、母君のように魔法省に勤めるのだろう? よければ、研究室のチームとしてそのまま、魔法省でもわたし直属の配属にならないか?」
とても魅力的な誘いだと思う。だけど、素直にお願いしますとは、すぐには言えなかった。
ご酒を過ごされて悪酔いなさると、母亡き後に空いたポストに就けなかった事を未だにグチグチとこぼす父のこと。
私が殿下に見出された事を、表向きは名誉だ光栄だ、さすがは次期当主だとか言って褒めそやすだろうけれど、宮廷内でも精霊魔法が重用されているとは言え上級職に士官出来なかった自分と比べて、また不機嫌になるに違いない。
そうなれば、ますますあの家で居場所がなくなるだろう。
それは、出来れば避けたかった。
今よりも疎外感や居たたまれなさに苛まれるなんてごめんである。
即答できないでいる私に、殿下は、辛抱強く待っている。
その間に、我がアァルトネン公爵家の町屋敷の表門に着いたらしい。馬車が、軽い振動と共に停止した。
先触れが行っていたからか、門扉はすぐに開かれ、馬車は再び動き出す。
薔薇のアーチや噴水のある前庭を通って、主屋の玄関口にある馬車留めに停まり、馬車の後ろのステップから従僕が降りる振動が僅かに伝わった。
気がついたら殿下の両手は私の手を放していた。恐らく、敷地に入った辺りからだろう。
先触れが行くことで、訪問先の家人は、客人を迎え入れる準備が出来る。
今日は、各業務の執事やメイド達だけでなく、家令や家政婦長、メイド頭も勤務日のはず。
エントランスには、父、義母、妹、家令と数人の執事が立ち並んで待ち構えていた。
「このような粗末な屋敷によくお越しくださいました、エリオス第二王子殿下」
「ああ、そう
父が頭を下げて挨拶をすると、従僕が扉を開けた馬車から降りつつ、殿下が父の口上を遮る。
「うちの娘に? はて、殿下は、エミリアに面識がおありでしたか?」
「ははは。
魔法師団司令部副長のわたしが、ギムナジウムにも
「は?はは? では?」
冷たい笑いを投げかけるエリオス殿下に、冷や汗をかきながら合わせて笑う父。
馬車の中で待機していた私に手を伸ばして促し、馬車の
「もちろん、魔法士学校でも優秀な彼女を、我が研究室と魔法師団司令部での助手兼副官としての
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