第4話
「社長さん、この銀行のセキュリティは確か、MBHBMでしたよね?」
MBHBMとは超小型のブラックホールを生成する爆弾のこと。ようするに、その場にブラックホールが出現する超危険な爆弾だ。コインほどのMBHBMでさえ、原子爆弾をはるかに上回る熱量を生み出す。銀行を更地にするなんてわけない威力があります。
そいつがここの金庫には搭載されている、とうわさに聞いていました。昔ながら大きな金庫なんだけど、それが正規の方法以外で開錠された場合にドカンと炸裂するんだとか。もちろん、金庫破りが行われたことはありません。あったら大変な騒ぎになってますから。
「はいありますが……」
「それ、使わせていただいてもよろしいでしょうか」
「いいですが、遠隔起爆なんかはできませんよ?」
「金庫破りをしないと爆発させられないってことでしょうか。それはなんだか難儀ですね」
つまり、MBHBMを使うためには誰かが銀行の地下にいないといけないってわけです。
誰かが犠牲にならなきゃいけない。
目の前でブラックホールが生まれるのを、その漆黒の球体が放出する大量の熱と光を浴びたい人間はいるでしょうか。いやいない。
「いったい何をするつもりなんですか?」
窺うような視線がわたしへとやってきます。
そんな彼らへ向かってこんなことを言うと、落ち着かなくさせてしまうかもしれないけれど、まがいなりにも交渉することになった手前、これからやることを打ち明けないわけにはいきません。
人質代行サービスをやっている人間として、誠実に対応することをモットーにしているつもりです。
「今から、あなたたちを殺します」
わたしの言葉に、銀行員たちの顔はセルリアンブルーに染まっていきます。社長室の外ではふらついている人もいて、言いすぎてしまったとやっと気が付きました。
「殺すというのは比喩表現です。あなたたちの存在をなかったことにするということを言いたいだけなんです」
けれども。
存在をなかったことにするってことは、それは死ぬのと一緒なんじゃないかって思うから、当たらずとも遠からずってやつなのかもしれません。
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