辺境伯領

テオが心配、いったいどうしたの?


  いつの世も、正しいこと、正義が善とは限らない。

  理にかなわないことが、善をなすこともあるのです。

  善いこと、悪いことの境は、曖昧あいまいなのですから。

  心しておきなさい。

  あなたの選択が、どんな波を起こすのかを。

 

       「女神ソルヴェイの教え」 ボルグヒルド・アクスバリ




 カロリーネが手配してくれて、ボクらは隊商と行動を共にしてきた。

 テオが独り言をブツブツとつぶやきながら歩いている。今までなかったことで、並んで歩いているボクは、少し心配。



「……マルコとシルヴィア、幸せそうだったな……マルコの笑顔……ちょっと怖いけど……優しそう……人を好きになるってなんだろう……嫌いって……あれ?」


 テオがつまずいてころんだ。のろのろと起きあがって、馬車を追いかける。


 オルテッサの街を出発して三日目、テオの様子が変になったんだ。

 時おりボクに返事をしなくなる。

 歩きが遅く、何度もころぶ。最後尾になり、ボクにうながされて先頭にもどる。


「テオ、どうしたの?」

「なにか、すこし……だるい。頭が、ふわふわしてるんだ」

「まだ完全に回復してないのかな」

「……そうかも……」


 その日は山間やまあいの小さな街、クローパニで隊商用広場に野営した。

 テオの具合がすぐれず、広場に着くなりうずくまってしまった。


「……なんだか……どうしたんだろ? 眠い……」




 ボクは隊商の頭と相談して、広場を管理する隊商用の宿に寝かせる。魔道具の管理はボクがずっと引きうけてきた。


「頭、明日いっしょに旅ができるかどうか、わからない。できる限り赤珠に魔力充填しておくよ」


 結局、ボクの予想通りテオは良くならず、隊商とは別れることになった。




 隊商の馬車が街から遠ざかっていくのを、ボクが見送った。



「見送ってきたよ。具合はどう?」

「……ごめんね……モルン」

「気にしないで、ゆっくり休んでてよ。ボクはここの主さんにあいさつしてくるから」


 テオはすぐに寝息をたてた。ボクは、サッサッと尻尾を振りながら見つめていたが、部屋をでた。




 それから三日間、テオは目覚めなかった。

 ボクは自分の用を足す時以外は、ずっと枕元で丸くなる。

 何も飲まず、食べずで大丈夫だろうか心配になり、テオの唇を水魔法で湿してみる。もごもご口を動かすが飲んではいない。


 クローパニの街には、魔術師ノ工舎の支部はない。

 巡回魔術師が月に数回訪れるが、今は一人もいない。

 治癒ができる者もおらず、薬屋をかねた助産婦さんしかいなかった。ボクはその人に相談してみたが、よくわからないという返事。


 ボクは気を揉むしかなかったんだ。

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