閃いた方法は
僕は夜中に意識がもどった。
顔の横、いつもの場所にいるモルンに手を伸ばして、柔らかい毛をなでる。
よかった。モルン、無事だったか。
「テオ。気がついたね。どこか痛いところはない?」
「ああ、モルン。無事だったんだね。いやな夢をみたよ」
「……。テオ、腕は動かせる?」
「腕?」
僕は、明かりの魔道具が薄っすらと照らす病室の天井にむけて、両腕をのばした。
「痛くはない?」
「うん、痛くないよ。……夢で、腕が、折れてた」
「夢じゃないよ」
「夢じゃない? ……あっ!」
起きあがろうとする僕を、モルンがとどめた。
「テオ、ここは治療院。魔術師ノ工舎のとなりだよ。治療も終わってる。何があったの?」
「治療院? なにが……ヴェン……グスター……襲われたんだ。夢じゃなかったんだな」
僕はモルンに、起こったことを話した。モルンの毛が逆立ち、尻尾が太くなる。
病室についていたコラリーは寝台横の長椅子で寝ていた。モルンは、僕の意識が戻ったと彼女を起こさなかった。
「許さない。絶対に。テオをこんな目にあわせて」
「モルン」
「テオは裸で倒れていたんだ。傷つけられ、全てを奪われた。取り返す」
「もう、逃げたんじゃない?」
「ううん、まだ逃げていない。テオが襲われたのを見ていた人がいた。路地の主さんにお願いした。他の主さんにも。この街の、オルテッサの街のみんなに頼んだんだ。襲った二本足を探して見張るようにね」
「見ていた人? ああ、あの目か」
「さっき連絡があった。見つけた、と。まだ、街にいる。……テオ、動けるかい?」
「動けると思う。行くのか?」
「うん。ボクひとりでもね。朝になれば街をでてしまうかもしれない。今夜じゅうがいい」
僕はコラリーを起こさないように、静かに寝台からおりた。
少しふらつき、頭を押さえる。
まばたきを繰り返して、自分の姿を見下ろした。一枚の布、貫頭衣を着せられ、おむつをされていた。横にあった布を靴代わりに足に巻いて、モルンにうなずく。
治療院を抜けだすと、暗闇の中で猫たちが待っていた。
彼らの案内で夜の街を静かにすすむ。モルンを肩に乗せようとした。
「テオがボクに乗ってほしいくらいだよ。いこう」
うしろには、いつの間にか猫がついてきて、その数は増えていった。
夜警と思われるカンテラの光をさけ、北にむかう。
大きな建物がならんでいるあたりで、案内の猫たちは建物と建物の隙間を入っていく。僕には通れなかったので、モルンだけがついていった。
しばらくしてモルンが戻ってきた。
「ここを抜けた先、アントン村の塩倉庫の大きいやつみたいな所にいるよ。入り口に見張りが一人。中に男が三人とヴェンとグスターが縛られていた。テオはこっちから行けるよ」
猫たちが、人が通れる道を案内してくれる。
倉庫が見える暗がりにかがみ込んだ。入り口にカンテラが置かれ、見張りが壁に寄りかかっている。
モルンが小声で僕に話しかけた。
「裏に猫が入れるくらいの隙間があるんだ。ボクが入って様子をみてきた。魔法の袋は男たちがいる部屋のテーブルの上に置かれてた」
「取ってこれるかい?」
「うん、待ってて」
「ここでなにか騒ぎを起こして、注意を引きつけようか?」
「うーん、そうしたほうが取ってきやすいかな?」
「入口の前で火炎弾を大爆発させるとか」
「それは猫たちも驚いちゃう。もっとおだやかな……ここにいる猫たちで大声をあげたらどうかな。入り口の見張りにむかって大声で鳴くのは?」
「大声で鳴くか。中の男たちに聞こえるかなぁ。あ、こんなのは? ごにょごにょ……。で、ごにょごにょごにょ」
「くっくっくっ。それいいね。面白いよ、テオ。そういうの大好きなんだよ、猫たちは」
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