魔力をあげるから、テオを助けて!


 テオが倒れている路地に続く道は人が増え、門衛と同じ革鎧姿が人をかき分けていた。


「こんなに集まってどうしたんだ?」

「路地に人が倒れているようなんだが、いっぱい猫がいて邪魔をする。入れないんだ」



「道を開けなさい! 魔術師ノ工舎です! 道を開けなさい! 通しなさい!」


 カロリーネが声をかけ、人混みに道を開けさせる。ボクは道の端をすり抜け、路地の入り口でカロリーネに声をかけた。


「ここ! この先にテオが!」

「おい、どうしたんだ? 何が起きてる! きちんと説明しろ!」


 警備兵がカロリーネに詰問したが、相手が魔術師ノ補と気がつき、口を閉ざした。


「説明はあと! 今はこの野次馬を整理しなさい! 直ぐにうちの治癒師がきます。通れるようにしておくように!」


 そう言うとカロリーネはボクと路地に入っていった。ボクを認めた猫たちはテオまでの道をひらく。

 急に動かさないように注意して、カロリーネはテオの状態を確認した。


「くっ、出血がひどい。腕が砕けて、背中も深手。止血する」


 革帯から短杖を抜いて、カロリーネが傷を洗浄、治癒魔法で止血、鎮痛の応急処理をする。

 その間、ボクはずっとテオの顔を舐めていたんだ。後で聞いたら、ずっと小さく声をだしていたって。




 路地に到着した治癒師の指示で、テオは荷馬車に乗せられて治療院に運ばれた。



 あらためて、体じゅうの傷が洗われ、治癒魔法での縫合を受ける。

 腕は、折れた骨が皮膚を突き抜けていたが、元の位置に直された。治癒師は、ここでカロリーネに確認する。


「この子の眼球、動きがおかしかった。『黒シビレ』の毒を盛られてました。解毒はしておいたわ。あとは骨なんだけど。整復は終わって、接合するだけよ」


 うなずいたカロリーネをみて、治癒師が続ける。


「でも、この子はまだ少年よ。成人なら自分の体組織を材料に使って、骨の接合治療しても、数日で動けるようになります」

「ええ、そうね」

「でも、この子にそれをしたら、下手をしたら命を落とす。上手くいっても、かなり消耗して長期療養が必要になるわ」

「体組織なら、そうね。魔力を使っては?」

「この子の魔力……使えるくらいあるの? 使っても大丈夫なくらい魔力が多いのかしら?」

「この子は魔術師ノ弟子よ。魔力量が銀なみのはずよ。魔力で治療できる」

「え? 銀なみ? そんなに! じゃあ大丈夫かしら。でも、足りなくなった時が心配ね。間に合えばいいけど」


 治療中も、テオの顔のそばを離れたくないボクが、質問する。


「ボクがあげる! テオの魔力じゃなくても使えるよね? ボクとテオは、時々魔力譲渡で魔力を譲りあってる。ボクの魔力を使って」

「ま、魔力譲渡? え、それって?」

「できる人はいないってキアーラが言ってたけど、ボクとテオは使える。だからボクの魔力をテオに流すよ」


 そう言って、ボクはテオの顔に肉球をのせた。


「いつでもいいよ」




 夕闇がせまるころ、テオは治療院の病室に移された。

 まだ意識は戻らない。コラリーが案じて、病室についていてくれた。

 ボクはテオの枕元にうずくまり、時折、前足を伸ばして肉球でテオの顔を撫でている。



 ピクンッと耳がたった。

 うん、誰か、ボクを呼んでいる。顔を上げて天井の隅を、じっとみつめる。


「コラリー、ここにいて。テオをみてて。ボクちょっと外にいってくるから」


 小用かと、コラリーはうなずいた。



 ボクは治療院の外に出ると、玄関の脇にいた猫たちと鼻を突きあわせた。

 耳と尻尾、体全部を動かし、尻尾をからませ、お互いの体を擦りつけあって、猫会話をする。


「ニャッ!」


 短く鳴いたボクに答えて、猫たちは暗がりに消える。ボクはそれを見届け、病室に戻っていく。


 許さないよ。 

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