解決方法を考えないと
「はぁー」
街門が見える位置に移った僕は、大きなため息をもらしてしまう。
「モルン、信じてもらえないって困ったもんだね」
僕からおりて、毛づくろいを始めたモルンが同意する。
「そうだね。でも、ボクらの行く手をさえぎれば、領主様に報告書がいくんだね」
「あ、あれはでまかせ。嘘だよ」
「テオ……嘘をついてはいけないって、ブリ婆さんがいってたよ」
モルンが立ちあがり、腰に前足を当てて僕を責める。
「うん。でも上手くいったでしょ。途中の村では、セサルやジェルマと一緒だったから良かったけど、これからもあることだなぁ」
「新しい街に入るたびに、これじゃあね」
「十三才は、すぐ小僧っていわれる。子どもだからなんだろうね。大人になればこんな事ないんだろうなぁ」
毛づくろいを再開したモルンが、答えた。
「大人ならねー。うん、テオもボクのように大きくなる練習してみる? 前はうまくいかなかったけど」
「うーん、もう一度やろうか。でも、できるようになるかわからないしなぁ。なにかこう魔術師だ、ってすぐにわかってもらえる魔法ってないかな? やっぱり赤珠の充填と吸収?」
「赤珠かぁ。もっと驚いてもらえるのがいいんじゃない? 氷の槍? 氷弾? あ、火炎弾を大爆発させるってのは?」
「どれもあぶないよ。ちょっと目立って、感心してもらえて、危険のないもの、ないかな。水じゃあ、迫力ないよねぇ」
モルンは毛づくろいを終えて、「うーん」と前後に伸びをした。僕を見あげて、スーッと肩に登る。
「石弾か風弾だと……? モルン、いま、何をした?」
「え? 何をした? テオの肩にのったよ」
「そうだけど、どうやって登った? 僕の体に、足をかけなかったぞ」
「いつも通り、ぴょんって」
「いや、そうじゃなかった。なんかスーってきたよね?」
「うーん? あ、ああ、物を宙に浮かせる訓練してるでしょ? もっと重い物を浮かせようと毎日ね。そしたらいつのまにか、自分を持ちあげてた。最近はテオの肩くらいなら自分を宙に浮かせられるかな。でもゆっくりだからね。いつもは、ぴょん」
「それだ! それだよ、モルン! もしみんなの目の前で宙に浮いたら? みんな驚いて魔術師だってすぐにわかってくれるよ! モルンどうやってるの? 教えて!」
それから僕とモルンは、宙に浮く方法について話しこんだ。
「おい、小僧。魔術師ノ工舎の方がいらっしゃるぞ。こっちにこい」
先ほどの中年門衛から声がかけられる。待っている人の列はなくなっていた。
僕とモルンが長机のところにいく。街側の門の先にある広場を、女性がこちらに駆けて来るのがみえた。
亜麻色の髪と明るい色のローブをなびかせている。門衛がそのうしろを不格好に走ってくる。
女性は長机の手前で立ち止まった。
呼吸を整えつつ、僕とモルンを明るい茶色の目で見つめている。視線が、僕の顔から胸のメダル、肩の上のモルンに移り、ぱぁっとまわりが明るくなったような笑顔になる。
「こんにちは! 初めまして! 私は魔術修学士コラリーです。魔術師ノ弟子モルンと魔術師ノ弟子テオですね!」
「はい、初めまして、こんにちはコラリー。魔術師ノ弟子モルンだよ」
「こんにちは。魔術師ノ弟子テオです。初めまして」
「ああ、本当に人の言葉を話すのですね! ほんとにほんとに! パエーゼの言う通りなのですね!」
「パエーゼが?」
「元気かな、パエーゼ」
「ええ。でもモルンのこの愛らしさ! こんなに綺麗だとは! パエーゼはいつも肝心な所が抜けてるんだから!」
「ははは」
あいさつの後で、共通の知り合いについて話し始めた三人を、中年の門衛と追いついた若い門衛が口を開けてみていた。
「あの、コホン、あのコラリー様。お知り合いなのですか?」
意を決して、中年の門衛が口をはさむ。
「あら、ごめんなさい。つい、興奮してしまって。お会いするのは初めてですが、お話しは聞いています。優秀な魔術師のお二方だと」
「で、では本当に魔術師なのですか? こいつら、いや、お二方は?」
「そうですよ、どちらも証をつけておいででしょう?」
「いや、しかし、小僧、いや、少年と、ケダモノ、子猫ですが?」
「私の言葉が信じられませんか? うーん、まあそうね、このメダルは滅多にないものね。このイゼルニア王国には、お二方以外にはいないわね。そうそう、身分を疑われた場合の規則なので、魔術師証を確認させていただきます」
コラリーは僕の許しをえて、魔術師証に魔力を流した。
「魔術師ノ弟子テオドロス。師は金ノ魔術師ガエタノ。承認魔術師は金ノ魔術師キアーラ。イゼルニア王国魔術師ノ工舎所属」
「ガエタノ?」
中年の門衛が声をもらした。
コラリーは、モルンの魔術師証にも魔力を流す。
「魔術師ノ弟子モルン。師は金ノ魔術師ガエタノ。承認魔術師は金ノ魔術師キアーラ。イゼルニア王国魔術師ノ工舎所属。確認いたしました。確かにお二方は、魔術師ノ工舎が認める魔術師です。正式な入舎式はまだですが」
「子猫が魔術師? あ、あの、ガエタノ様とは、アントン村の金ノ魔術師の?」
「ええ、そうです」
「あ、出身地はアントン村だと」
二人の門衛が、あらためて僕とモルンを見つめる。
「コラリー様、魔術師ノ弟子って、徒弟ではないのですか?」
若い門衛がたずねた。
「徒弟? いいえ、全然ちがいます。魔術師ノ補と同じ身分、厳密に言えばそれより上。私よりもずっと上です。このオルテッサの街では、魔術師の中で一番になりますね」
「え?」
「失礼なことはなかったでしょうね?」
コラリーが、あわてる二人の門衛を見つめた。
「コラリー、失礼なことはなかったよ。『ケダモノ』とか『小僧』とか『失せろ』なんて、いわれてないよね、テオ」
「そうだね。とても親切にしてくれたよ、コラリー」
二人の言葉を聞いて、コラリーの表情が固くなった。
「コラリー、魔術師ノ弟子を知らなかったんだからしかたないよ。門衛さんたちが悪いんじゃないんだ。これからは、もう少しケンキョにお仕事をしてくれるとおもうよ」
モルンが門衛たちににっこり笑いかけ、僕の肩からスゥーッと宙に浮きあがる。
「えっ? ええっー!」
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