オルテッサの街
隊商はいくつかの村をとおり、六日目の昼には、オルテッサの街門についた。
遠くから石と丸太を組み合わせた厚い壁がみえて、厚板の扉が南に向かって開かれている街門についた。
ここで門衛の検問を受けて、通行税と滞在税をはらう。
セサルが僕たちに教えてくれる。
「魔術師は、税を免除されているはずだよ。商人と荷馬車の列ではなく、あちらの徒歩の人の列に並んで、魔術師証を見せるといい。テオとモルンとはここでお別れだな」
「はい、いろいろお世話になりました」
「みんな! ありがとね!」
「ああ、元気でな!」
「こっちこそありがとうだ!」
僕とモルンは、商人と護衛たちに手をふって隊商と離れた。
列には荷を背負った農民や商人風の人たち、槍を持った人なども並んでいた。一番後ろに並んで順番を待つ。
「ねえ、ずいぶん人がいるね。アントン村よりずっと大きな村だね?」
モルンは、僕の肩で大きく尻尾をふって、きょろきょろしている。僕も同じ様にあちこち見ながら答えた。
「そうだね。何倍も大きな村だね」
僕たちの前、槍を持った男が会話を聞いていて、笑って振りかえった。
「わははは、大きな村か。坊主、ずいぶんと
「へぇー、そうなんですか。教えてくれてありがとう」
「坊主、いま誰と話してたんだ? 独り言か?」
「独り言? ああ、モルンか」
「おじさん、ボクとだよ」
モルンが前足をあげる。
「え? 猫? 子猫が話した?」
「うん、ボクは話せるんだよ」
男は目を白黒させてモルンを見つめ、ブルルッと頭をふる。前に向き直り、ぶつぶつとつぶやいた。
「まだ酔ってるか。思ったよりゆうべは飲みすぎたな」
モルンと僕は、顔を見合わせてくすくす笑う。
順番がくると、若い門衛が僕の前を槍でふさいで、無愛想に声をかけてきた。
「出身地、名前、通行証か身分証」
僕とモルンは、出しておいたメダルを見せて答える。
「アントン村、テオ、魔術師ノ弟子です」
「アントン村、モルン、魔術師ノ弟子だよ」
「はぁ? 魔術師の……なんだって?」
「魔術師ノ弟子です」
「魔術師ノ弟子? 徒弟か。通行税が大銅貨三枚、滞在証作成と滞在税に大銅貨五枚」
「はい? あの、すみません、魔術師は税が免除と聞いたのですが?」
「魔術師? 徒弟は魔術師じゃない。お前は徒弟、魔術師じゃない。大銅貨八枚。それとそのケダモノはヒモにつないでおけ」
「ボクはケダモノじゃない! それにボクらは徒弟じゃない!」
モルンから声がかかり、門衛は激しく瞬きした。モルンを見たが、無視して僕に視線を向ける。
「大銅貨八枚!」
「モルンがいうように、僕たちは徒弟ではありません。魔術師ノ弟子です」
「ちっ! なにをいってる! 税が払えないなら街には入れん。失せろ、小僧!」
「はい?」
「後ろがつかえているんだ。仕事の邪魔をするな」
「ですから、僕らは魔術師ノ弟子です。この魔術師証を見てください」
門衛は僕のメダルを見たが首をふって、さらに声を荒らげる。
「そんなメダルは見たことがない! そいつは鋼のようだ! 徒弟なら鉄鎖、魔術師ノ補と魔術修学士は銅だ!」
「なにをしてるんだ!」
「まだか!」
「おい。急いでいるんだ! 早くしろよ」
僕のうしろから声がかかった。
門の奥、長机を前に座っている中年の門衛が、大きな声をだす。
「どうした?」
「この小僧が魔術師だと言はるんです。鋼のメダルで、魔術師ノなんとかだと」
「鋼のメダル? 魔術師証が鋼? 聞いたこともない。税が払えんのならそこをどけ。みんなの邪魔だ」
「テオ、テオ、ボクだんだんイライラしてきた。魔法で蹴ちらして、押し通ろうよ」
「まってモルン。それはだめだけど、僕も腹がたってきた。あっ、ジェルマも知らなかった、少ないんだっけ?」
僕がモルンの背をなでながら深呼吸して、静かに話す。
「ねえ、門衛さんたち、自分の知らない魔術師証だからって魔術師を無視したら、後で問題になるよ。僕のメダルをよく見て。この記章。この街には、魔術師ノ工舎の支部があるはず。使いを出して確認しなさい。それまでは待つ」
噛んで含めるように、ゆっくりとしてきた僕の声。たぶん同時に、僕の目もだんだん冷たくなったんだと思う。
門衛たちは顔を見合わせた。
「た、確かに魔術師と問題を起こすのはまずい。だがこんな小僧のいうことを」
「魔術師と問題を起こせば結界にも影響する。それでもいいんですね?」
「こいつ、俺たちを脅すのか? 失せろ!」
「いいから直ぐに使いを出しなさい。そうでなければ、魔術師ノ工舎から正式に報告書が、苦情の報告書がいくことになる。領主、オルランド辺境伯に。直接に」
「え? り、領主様に? それは、うーん。か、確認だけでもするか。よ、よしわかった。お前、支部までいって魔術師に来てもらえ」
「えー、俺がですか? あ、いや、俺がいきます! あの美人さん今日はいるかなぁー」
若い門衛が、革兜に革鎧姿で槍をかついで走りだす。言い争いを見物していた人たちが、あわてて進路から飛びのいた。
僕らは、門のわきに移動して、うしろの人たちに道をゆずった。
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