魔法書にない魔法


 ボクは魔術師になったよ。


 本当は今も火が怖いけど、ついつい見入っちゃうんだ。

 テオが炎に照らされたボクの目がとってもキレイだっていってくれる。だから、火魔法の火弾がいっとう好き。

 キアーラは火炎弾だっていうけど、詠唱したのは火弾だからね。

 でもキアーラに注意されて、訓練場や村を吹き飛ばさないようにと「加減」を特訓。できるだけ小さくといわれて、魔力、威力を変える練習をしたんだ。

 ボクの前足からビュッて飛んで、どぉーん。

 尻尾の先からヒュン。ドゴォーン。

 でも火傷は、絶対イヤ。



 ガエタノとキアーラに聞いても分からなかった、ボクの魔法。

 ペンや短杖を持つ。

 物を宙に浮かせる。

 大きくなったり小さくなったりする。

 テオもできないんだ。魔法書に詠唱の呪文もないって。

 「あるがままでいい」って誰かが教えてくれた。


 で、まだなにかできそうな気がするんだよ。


 訓練場はチプリノの納屋に近い。

 よくネズミがいるから、おやつにちょうどいい。

 ネズミの足音がして体を低くして近づくと、ボクの入れない狭いところにいる。じっと見つめて、ちょっと前足で「こっちこーい」ってやる。

 小さなやつがチョロチョロ出てきた。

 一口分だったから、もう一回やってみた。でも大きやつは出てこないね。ザンネン。


 鳥さんにもやってみたけど、あんまり上手くいかない。


 それから、時々、ほかの猫になることもあるんだ。全部がその猫になるんじゃないけど……うーん、そのヒトが見てるものが見える? 目を借りてる? そんなことがあるんだ。



 それから同じ魔力で「圧縮」って方法も習ったよ。

 圧縮すると白い光になって、的の石が溶けちゃった。



 訓練の後はよくお昼寝をするよ。訓練場でみんなでお昼寝。


『猫魔法は眠くなるからな』

『親方、ボクは猫魔法じゃなくて人間の魔法を教わってるよ』

『ああ、そうだな。もの好きだな』

『そうなの?』

『猫魔法は誰でも使える。お腹が空いたらご飯が食べたいだろう? 二本足に持ってこさせたい時に使っているあれが、猫魔法だ。赤ん坊でも出来る』

『へー、あれって魔法なんだ』

『うむ。……しかし、おまえは匂いが少し変わってきたな』

『え? そうなの?』

『ああ、懐かしい匂い。初めの匂い。まあ、世界をよろしくな』

『世界?』



 そうそう、親方から教わったことで、良くわからないこともあるんだ。


 村の女のヒトたちが、ボクにスリスリしてきて尻尾を絡めてくる。男のみんなはそれを観て、すっごい怒るんだよ。


 シャーって怒って、パンチしてくる。あわてて逃げだしても、女のヒトたちが追い駆けてくるからずっと怒られ続けちゃう。

 ミーアんとこの兄弟たちも怒るんだ。


 親方も怒ってたけど、「恋」に関することなんだって教えてくれた。

 恋って赤ちゃんを作ることだって。どうして赤ちゃんができるかはわからないけどね。


 だれが女のヒトに気に入られるかの、とっても大切な男の闘いなんだって。


 それより魔法の練習が良いんだけどな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る