後から教えてもらったこと


 それからのことは、ベッティやブリ婆さん、村の人、みんなが話してくれた。意識たちも。

 聞いたことをつなぎ合わせて、なにが起きてたのかわかったんだ。



 みんなが僕を、家に運びこんでくれた。


「なんてこと!」


 ブリ婆さんが、焼けただれた僕の姿を見るなり、大声で叫ぶ。

 われを失っていたのは一瞬で、すぐに村人にテキパキと指示して寝室に運ばせた。


 ガエタノはブリ婆さんの声に書斎からでてきて、口汚くののしった。けれども僕に治癒魔法をほどこしてくれた。



 窓辺が夕日で赤くなるころに、僕の意識がもどった。

 枕元にはガエタノが座っていた。


 ガエタノはなにが起きたのかはみんなから聞いていたが、僕に詳しく話をさせた。



「どおりでな、治癒魔法の効きが悪かったわけだ。おまえの魔力が不足していたからか」


 そういうと一度部屋をでて、直ぐに戻ってきた。僕に、拳ほどの赤珠を手渡してくれる。


「この赤珠の魔力を、吸収できるようになれ。吸収の訓練だ。治すのにおまえの魔力が使えなかった。体じゅうの血や脂、骨を材料にしなくてはならなかった。しばらくは魔力と体力が戻るのに時間がかかるはずだ。いいというまで寝台からでるな」


 そういって、腕を組んだガエタノは、僕を、じいっと見つめる。


「今度は、また厄介なことを引き起こしたな。テオ、おまえはこれから大変なことになる。なんとかしなくては……」




 ここからは、意識たちが教えてくれたことだ。

 火事の翌日に、ドゥーエとセッテの両親が見舞いにきた。僕は眠っていたので、ガエタノとブリ婆さんに礼をいって帰っていったそう。

 もうふたり、見舞客が訪ねてきた。


「ニャア、ニャア」


 玄関で鳴いて扉を、かりかりと引っかいて来訪をつげる。

 あいにくと、チプリノは裏庭の菜園にいる。

 ブリ婆さんは、最近はますます耳が遠い。


 ミーアは、ここまでくわえてきた子猫とともに玄関の前に腰を落ちつけた。誰かが気づいてくれるのを、じいっと辛抱強く待つ。

 子猫は丸くなり、ミーアの尻尾は、ゆるゆるとふられる。



 ベッティが見舞いにきて、やっとミーアと子猫は家の中に入れた。

 ミーアはしばらく家の匂いを嗅いだあとで、子猫の首をくわえて僕の部屋の前にいった。

 振り返って「開けて」といいたげにベッティとブリ婆さんを見つめる。子猫は玄関でも部屋の前でも大人しくしていた。


「二人でお礼とお見舞いに来たのね。入れてもいい?」


 ブリ婆さんがしかたなさそうにうなずいたので、ベッティが部屋の扉を開けて二人を入れてやった。


 部屋にはいるとミーアは壁際に子猫をおろし、あちこちの匂いを嗅ぐ。子猫はおろされた場所にちょこんと座っている。

 ミーアは部屋の点検を終えて、子猫の首をくわえて僕の寝台に飛びのった。

 くわえていた子猫、僕が助けた子猫を枕元に置くと、「ニャア」と声をだした。子猫は眠っている僕の匂いを嗅ぎ、あくびをして枕の上で丸くなる。


 ベッティとブリ婆さんは顔を見合わせてほほ笑んだ。


 ミーアは、しばらく僕の顔を見つめていた。納得がいったのか、子猫を残して寝台から飛び下り、自分の家に帰っていった。


 これが、火事のあとに起こったことだった。




 しばらくして、僕は、顔に温かいものが押しつけられて目を覚ました。毛の塊? 子猫? なんで顔の横で一緒に寝てるの?


 手を毛布から出して子猫の体と、顔に伸ばされた前足と肉球をなでた。子猫はもぞもぞと体を動かし、ふたたび丸まった。

 この子、助けた子? なぜいるの? でも……なぜかな、こうして横で寝ていられると安心するな。


 僕も再び眠りに落ちた。はずだけど、寝返りで子猫を潰していないか心配になるんだ。何度もハッと目を覚まして、良く眠れなかったんだ。



 親猫ミーアは、朝昼晩と自分の家と僕の家を行き来してくれる。子猫と、僕の世話を焼いてくれた。

 髪や目の周り、顔全体をなめて、キレイにしてくれる。でも、ザリザリと痛いんだけどね。ありがとう。


 子猫には自分のお乳を飲ませたが、僕用にはネズミか、生魚を持ってきてくれる。


 ブリ婆さんはネズミと生魚の始末をするのに、ブツブツ文句をいって、ひどく閉口していたね。

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