みんなへのごほうびも、ボクの魔法が大事


 ボクたちが、ベインテ司祭の馬車と盗賊の馬たちを連れて戻る。司祭の御者は、後ろ手に縛り前を歩かせている。


 盗賊たちも縛られて、テオの荷馬車につながれていた。どの男もみんな憔悴しょうすいした顔をしている。再生治癒は自分の体を材料にするからね。もう、暴れられないね。


 盗賊たちの縛り具合を確認して、ボクとテオが声をかけた。


「いい具合だね。出発はちょっと待ってもらおうかな。ね、テオ」

「リリアーヌ様、騎士マチアス様、いましばらくお時間をください。今日活躍してくれた彼らに、ごほうびをあげないといけないのです」



 テオはそういって、荷馬車からたくさんの木皿を取り出してならべていく。猫たちは行儀よく木皿の前にすわった。

 荷馬車に積まれた木箱から、木の大鉢と大きな革袋を取りだす。

 革袋を大鉢にかたむけて、中身の小さな茶色い粒をザラザラといれる。ボクが、短杖を青く光らせる。


「子猫が短杖を? 持てるの?」

「どこから出したのでしょう?」


 ボクはリリアーヌと侍女の会話を聞きながら、フフン! と流し目で見て、魔法を発動する。青い光は大鉢にとどき、サラリサラリと涼やかな音をたてて、水がそそがれる。


「クリームのように、なめらかにするのがいいんだったよね」

「うん、そのほうがみんなの好みかな」

「モルンは火はうまく使うけど、水はもっと訓練しないとね」

「だって、濡れるのは、いやだもの」


 テオが短杖を大鉢につきつけると、ボクがそそいだ水がゆっくりまわりだした。木皿の茶色い粒が、水でクリーム状になる。

 テオの準備を見て、猫たちは、パタパタと耳と尻尾を動かしていた。その中でも待ちきれない子が、かがんだテオの足や腰に体をこすりつけている。


「まだだよ、みんな。テオに混ぜてもらったら、わけるからね」

「よしっと。わけるからね。あ、こら、まだ、なめちゃダメ。待てないのもいるんだから、もー。いいよ、モルン」

「うん。ニャンニャー!」


 ボクの合図で猫たちが、木皿の中身を一心不乱になめだした。


「ウニャウニャ」

「ウー」

「ウン、ウン」


 中には声をだして食べている子たちもいる。もちろん、ボクも一皿もらったよ。



「まあ、まあ、まあ。ふふふ、みんな、ありがとうね。おいしそうね」


 リリアーヌが木皿のまわりで猫たちに声をかける。ヒョイと木皿に指を伸ばして中身をすくって口にした。


「うっ! ちょっと変なお味。お肉? お魚かしら。もっとお塩がほしいですわね」

「ふふふ、リリアーヌ様。つまみ食いはいけませんよ」


 リリアーヌが、ちょっと顔を赤くした。


「これは、肉や魚を材料にしたものです。塩は、猫にはあまり食べさせないほうがよいのです。これでちょうどいいんですよ」



 テオが、猫たちが食べ終わった木皿を水魔法で洗って、荷馬車にしまってくれる。

 護衛たちから、小声の会話が聞こえてきた。


「洗い物に魔法を使うなんて」

「魔力量が重要なはずだが。あの戦闘のあとで、洗い物に魔法を使って大丈夫なのか?」

「あの再生だって、魔力は相当に必要なんじゃないか?」



「お待たせいたしました。では、領都にまいりましょう」

「あ、その……テオ、モルン、こちらの馬車にご一緒しませんか? お話をお聴きしたいわ。お願いします」

「リリアーヌ様。それは」


 侍女とマチアスが、むずかしい顔になる。


「うーん」


 ふたりを見て、テオが返事にこまる。


「テオ、テオ。ボクはリリアーヌと一緒にいきたい」


 ボクが、小首をかしげてマチアスと侍女を見あげる。……ちょっとあざとかった?


「わかったよ。ではマチアス様も、ご一緒されたほうがよいでしょう。すみませんが、僕の荷馬車をお願いします」


 マチアスがうなずき、指示をだして、一緒に馬車に乗りこんだ。




 一騎が先導して、テオの荷馬車が、猫たち全員を乗せてつづく。

 騎士マチアスの部下が御者をしている。他の護衛たちは、その光景に笑いをこらえている。

 荷台に鈴なりになった猫たち。その猫たちにじっと見つめられて、縛られた盗賊たちが並んでよろよろと歩かされているんだ。

 護衛たちはついにこらえきれず、大笑い。緊張がとけたんだね。


 ベインテ司祭とスワサントは後ろ手に縛られ、猿ぐつわをされた。司祭の馬車に押し込められ、お互いをけりあう物音がいつまでもしている。

 リリアーヌが乗る馬車は、従者が御者をして、一騎が後衛をつとめる。



「領都に近づいたら、この一行をみて、ちょっとした騒ぎになるわね」

「あははは、注目されるよねぇー」


 テオは、進行方向を背にしてマチアスのとなりに座っている。ボクは、その膝の上で笑い声をあげた。リリアーヌは、じっとボクを見つめて自分の膝をなでている。


「モ、モルン、モルン様。あの、その、わたくしの膝の上に乗っていただけないでしょうか?」

「いいの? うれしー! 最近、テオの脚が固くなってきてねぇー」


 ボクはヒョイとリリアーヌの膝に飛びうつった。うん、柔らかくて、おまけにいい香り。


「モルン、失礼がないようにね」


 リリアーヌはボクの背をなでて、テオを見つめた。


「テオはお若いのでしょう? 私と同じくらいではありませんか? そのお年で金ノ魔術師。モルンも金ノ魔術師ですのね」

「ええ。僕はともかく、モルンは、人種以外では初めての金ノ魔術師です」

「テオ、モルン。ぜひお話をお聴きしたいわ。魔法のことや魔術師のお仕事。お二人の出会い。私は魔法に、とても興味があるのです」

「そうですか、魔法に。そう、モルンと出会って、もう何年にもなります」

「ボクはね、テオに、命を助けられたんだよ」


 ボクの答えに、リリアーヌが目を輝かせてテオを見つめる。テオもリリアーヌの目を見つめてほほえんだ。お? おおっ、うふふふ。


「お話ししてもかまわないでしょう。僕とモルンが出会ったのは……。いえ、そもそもの始まりは、僕が……」

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