白状しないとボクの猫魔法で


「荷馬車にロープがあります。縛って連れていきましょう」

「了解しました。領都で取り調べます。お尋ね者も交じっているようです」


 マチアスが、まわりの盗賊たちをみまわした。盗賊たちは血が流れる顔や腕をおさえて、泣き叫んでいる。


「そろそろ治療をしないとまずいかな? うるさいしねぇ」


 誰にともなくそういうと、テオの両手が白く光りだした。

 テオが短杖で盗賊たちを指し示す。白い光、治癒魔法の光が、盗賊たちの傷口をふさいでいく。

 切り落とされた手首が、ゆっくりと再生していく。


「え? 手が生えていく?」

「……聞いたことがある。治癒魔法でも『再生』は高度な魔法だと」

「あの子がか? 金とは、そんなことまで出来るのか?」


 男たちは手が再生していくにつれ、新たに悲鳴を上げ身悶えしてる。うん、再生ってすっごく痛いんだって。

 治癒魔法はボクだって使えるけど、人間ならテオ、猫ならボクの方がいいね。負け惜しみじゃないからね。


 その時、森の奥から、悲鳴が聞こえてきた。


「ぎゃー!」


 顔を手でおさえた男が、森からよろめきながらでてきた。

 身にまとっている白いローブには血が飛びちっている。男のまわりを、猫たちが取り囲んでいっしょに歩いてくる。


「ああ。そうそう。ベインテ司祭、あなたを忘れていたわけではありませんよ」

「ベインテ司祭?」

「そうです。あれが、盗賊にリリアーヌ様の誘拐を頼んだ司祭です。セイス司教の命令でね」


 ベインテ司祭はリリアーヌたちを見て、きびすをかえして逃げ出そうとした。


「シャー!」


 足元の猫たちが怒りの声をあげる。ベインテ司祭は、それを見て動きをとめた。凍りついたその顔には一面に猫に引っかかれた傷があり、血が吹き出している。



「セイス司教が? セイス司教が、私を誘拐しようとした?」

「ええ。司教はリリアーヌ様を我がものにしたいと思っています。そうだね、ベインテ司祭?」

「……」


 ベインテ司祭は、血を流したままで、テオをにらみつける。


「ほほう。すべてを知られているのに、反抗的だね。もっと素直になったほうがいいよ。あ、モルン。あれ、やってみる?」

「あれ? ああ、うん。素直になってもらったほうがいいよね。大爆発でいい?」

「いや、それじゃあ、死んじゃうから。……踊るのでいいと思うよ」

「えー、大爆発がキレイでいいのになぁ―。じゃあ、しかたがない。踊るやつのれんしゅう、レンシュウ」


 ボクはテオの肩から飛びおりた。トコトコとベインテ司祭によっていき、座った。

 右前足をあげ、しばらくベインテ司祭を見つめる。


「ナー」


 声をだして、肉球をクイクイと手まねきのように動かした。ベインテ司祭は、ボクと同じように右腕をあげて、血まみれの手のひらを動かす。


「ほいほい!」


 ボクが左前足を動かす。ベインテ司祭も左腕をあげて、手のひらを動かす。


「そらそら!」


 立てたボクの尻尾がゆっくり円を描くと、ベインテ司祭はその場で、くるくるとまわりだした。



「うんうん。いいみたいだね。じゃあ、素直になったから、もう一度聞くね。セイス司教の命令だね?」


 ボクの質問に、くるくる回るベインテ司祭が答えた。


「あわわわわ。や、やめてくれ。目がまわる。やめてくれぇー」

「はぁー、しかたないね」


 ボクが、そういって尻尾の動きをとめると、ベインテ司祭は、へなへなとへたりこんだ。


「さあ、答えて。じゃないとまた回ってもらうよ。次は、とめないかもね」

「そ、そうです。リリアーヌを、さ、さらってこいと。セイス司教から、命令されました」


 満足したボクはテオを振りかえって、にっこり笑った。


「うまくいったよ。うーん、まだまだ工夫が必要かな」

「うん、ご苦労さん。あとでもっと試そうね」

「不思議な……魔法?」


 リリアーヌがポツンとつぶやいた。



「と、いうわけでリリアーヌ様、首謀者はセイス司教だそうです。ああ、そうそう。マチアス様、どうしてここで馬を休ませることにしたのです?」


 テオは川原にむけて、ぐるりと手をふった。


「え? どうしてといわれても、その必要があったからだが」

「もっと手前にも、この先にも馬を休ませる場所があるでしょ? ここで休むと誰が言いだしたのかなぁ?」

「それは御者が、街をでるときに、御者が頼んできた。今日は馬の調子が心配なので、ここで、休むように、してくれと。 ?」


 テオは、ボクを見てうなずく。


「へぇー、御者さんがねぇ。ここを通りすぎていたら、盗賊は待ち伏せが出来なかったよねぇ。都合よく、ここで、馬車をとめてくれないとねぇ」

「あっ!」

「そうなんです、マチアス様。ねえ御者さん、どうしてここで、休むように言ったのかな?」


 御者は馬車に背をつけて青い顔をしている。そこへ、テオが笑顔で問いかけた。


「え? そ、それは、う、馬の調子がよくなくて」

「へぇー。スワサント。あなた、スワサントって名前でしょ? 三日前に誰と食事した? このベインテ司祭と食事してたよね? 『虹の架け橋』ってお店で」

「え? どうしてそれを?」

「語るに落ちたね。伯爵の御者をやめるんでしょ? 王都で、馬車屋の経営者になるんだよね? セイス司教の肝いりで」


 テオの笑顔が深くなる。


「……」

「まあ、そういうことです。ああ、そうそう、スワサント。ベインテ司祭が、襲う前に盗賊に命令してたよ。『今日この場で、スワサントは始末するように』ってね。これで口がなめらかになるでしょ?」


 スワサントは、テオが言ったことの意味を理解すると、目を大きく見開いた。すぐにベインテ司祭をにらみつける。


「テオ、これで全部かなぁ。森の中の馬と馬車を取りにいこうよ。この子たちは、まだ枝に結んだ手綱を外せないからね」


 ボクは、テオを見上げて森をさし示した。


「マチアス様、ベインテ司祭の馬車と馬たちを連れてきます。盗賊たちを縛りあげてもらえませんか? 僕の荷馬車から二列に並べてつないでおいてください。僕とモルンが、領都までお供いたします」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る