テオ、魔法剣士の戦い方は軽やかに


 テオはマチアスたちに声をかけ、走りながら左手で短杖をぬく。

 オレンジ色の光が、短杖から美しい曲線を描いて打ち出される。テオにもっとも近い盗賊の剣をつかんでいる手に当たり、炎をあげた。


「ぐわっー!」


 盗賊は剣をおとし、炎をあげる手をつかんだ。

 テオは右手で抜剣して、盗賊の燃える手首を斬りおとした。



 盗賊たちは、猫にかこまれ起きあがろうともがく。


「ニャン!」


 ボクと猫たちが前足をあげて声をだすと、起きあがれずに尻もちをついて、ふたたびころがる。

 テオは、自分の方にころがってきた盗賊の、剣をもつ手を燃やす。ついで手首を斬りとばした。


「ヒィー!」


 叫び声をあげてしゃがみ込んだ盗賊を、けりたおす。

 次の盗賊も短杖からの光で手が炎をあげたが、痛みに耐えて剣をつきだしてきた。


 キンッ!


 テオは剣で相手の剣をはねあげ、短杖で相手の顔を焼く。


「ぎゃっ!」


 これには耐えきれず、思わす顔をおさえた。その手が鼻ごとテオに断ち斬られる。



 ひとりの盗賊が、なんとか体をおこし、猫にむけて剣を振りまわした。猫たちはヒョイヒョイと身をかわすが、盗賊からは目をはなさない。

 そこへテオが踏みこんで、上から剣を叩きおとした。そのまま裏刃で腕を長く斬りさき、剣を返して、肘から先を斬りはなした。


 盗賊のまわりにいる猫たちに、テオが声をかけた。


「そいつらも、やっつける!」


 そう叫ぶと、地を這うように低く身をかがめて、軽やかにステップをふむ。

 盗賊たちの真っただ中を、くるくると踊るようにかけぬける。盗賊たちは顔を斬りさかれ、手首を斬りとばされていく。



 テオは動きを止めて、最後のひとり、一番体の大きな盗賊をにらんだ。

 盗賊たちから「兄貴」と呼ばれていた男は、手下たちがやられていくのをみて、息が荒くなり額から汗を滴らせている。


「みんな、さがって!」


 猫たちが、テオの声を聞いて、男から距離をとった。ボクを抱いているリリアーヌの手に力が入る。

 男は肩で息をして、剣をかまえている。テオが、ゆったりとした足取りで近づいていく。


 ボクは、もがいてリリアーヌの腕から飛びおり、テオに向かって駆けだした。


「あっ! だめ! あぶない!」


 叫び声にも振り向かず、ボクはテオの背中にとびついて、左肩にかけあがった。


「く、くそっ!」


 「兄貴」がテオに向かって剣をふりあげる。同時に、ボクが肩の上で立ちあがる。


「ニャ!」 


 声とともに、前足から緑色の光が放たれる。光は強い風を生み、「兄貴」は手足を広げて、うしろに吹きとんだ。


「ガワッー!」


 テオが短杖をつきつけて、一直線に向かっていく。吹き飛んだ「兄貴」の手を焼く。さらに、ふところに入りこみ、体をくるりとまわして剣を一閃する。


「ぎゃあー!」


 大きな悲鳴とともに、剣をにぎったままの「兄貴」の手首がころがった。




 盗賊は、襲ってきた全員が動けなくなっていた。

 ボクとテオ、猫たちが、近くに盗賊が残っていないことを確かめた。


「ニャ? ニャニャ!」


 ボクの指示で、猫の一部が森の中に入っていく。

 他の猫たちは、うずくまる盗賊たちのまわりに座っている。盗賊が耳障りなわめき声をあげて痛みに苦しむ様子を、猫たちが油断なく、じっと見つめている。



 マチアスたちは、ボクとテオたちを警戒した。盗賊と同時にあらわれた者たちを、不審の目で見ている。そりゃそうだよね。

 テオは、布を取りだして血をふきとり、剣を収める。ボクを肩に乗せたまま、リリアーヌとマチアスに近づいていった。



「ロングヴィル伯爵家リリアーヌ様ですね。そちらは騎士マチアス様。皆さんにお怪我はございませんか?」

「あなたは?」


 マチアスは、テオに質問した。マチアスの剣は抜いたままで、脇にさげられている。


「これは申しおくれました」


 そう返事をすると、テオは首元から金銀鎖にさげられた金のメダルを取りだした。


「僕は金ノ魔術師テオです」

「ボクは金ノ魔術師モルンだよ」


 テオの肩の上で立ちあがっているボクは、自分のメダルを肉球でおさえてみせたんだ。


「猫が、子猫が話した?」

「やっぱり聞きちがいではなかったのですね。本当に子猫が話しているわ」

「うん、人の言葉はわかるよ」


 ボクは、肩の上でフフンッと胸をはった。尻尾はゆったりと左右にふる。


「……失礼、そのメダルを拝見いたします」


 マチアスが、ふたりのメダルを確認した。


「ありがとうございます。失礼いたしました。リリアーヌ様、たしかに魔術師ノ工舎の魔術師証です」


 そう報告すると、部下たちに剣をおさめさせ、自分も納剣した。


「金ノ魔術師モルン様。金ノ魔術師テオ様。おかげで助かりました。お礼申しあげます。通りかかっていただけたのは、とても幸運でしたわ」

「『様』はなしでお願いします。それから、僕らは通りかかったわけではありません。ここでリリアーヌ様を襲う、という情報を手にいれたのです。僕らも待ち受けていたのですよ」

「盗賊の待ち伏せを、あらかじめ知っていたと?」

「そだよー」

「ええ、そうです、マチアス様。ですが、僕がお知らせしても、見ず知らずの一介の魔術師。リリアーヌ様は信用なされないでしょう?」


 リリアーヌの侍女がうなずく。


「それで、こちらも猫たちと待ち伏せをしかけたのです。そうそう、盗賊は縛りあげたほうがよいでしょうね。モルン?」

「うん、呼んだよ」


 その声とともに、一頭立ての荷馬車が森からでてきた。引き馬には、黒猫が腰をかけていた。

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