幕間の雨宿り <2>

 幕間の雨宿り <2>


 深夜零時を回る頃、ある雑居ビルの軒下に一人の男が立っていた。口元にはタバコを咥えていて、物憂げな表情で紫炎を燻らせている。

「……これは一雨来るな」

 呟きながら、胸元から茶色い革の手帳を取り出す。ページを捲りながら、ゆっくりと灰色の煙を吐き出した。

「候補としては……三箇所か。何処へ向かうかを決めるには情報が足りないな。──さて、どうするか」

 男が真っ黒な空を見上げるのと同時に、ぽつぽつと小さな雨粒が静かに空から落ちてきた。その弱々しい雨は、あっという間に勢いを増し、雨粒は大きくなって地面を濡らし始める。

 男の表情は険しくなり、眼鏡の奥の瞳に影が落ちる。

「迷ってる暇はないな。イレギュラーな雨だが、万が一ということもある。近いところから回るか」

 男が軒下から一歩踏み出そうとした時、男のポケットから着信を知らせるメロディが流れた。男は踏み出そうとしていた足を止め、ポケットから携帯電話を取り出して画面に表示される着信相手を見てため息を吐く。

「まったく、タイミングが良いのか悪いのか。──はい、こんな時間にどうしたんですか?」

 タバコをふかしながら、男は着信に応答する。

「ええ、そっちにも聞こえますか? 唐突に雨が降り始めましてね。奴が姿を表す可能性はある。今から濡れながらの捜索ですよ」

 唐突に降り出した雨は勢いを増すばかりで、今や大雨も通り越して豪雨となっている。

「そっちはどうです? あなたにしては時間がかかってるようですけど。──なるほど、そっちもそっちで厄介ですね。……心配? まさか。さっさと済ませてきてください。もっとも、あなたが来るまで好きにやらせておくつもりはないですが」

 男は吸い切ったタバコを携帯灰皿に捨て、意気込むように前髪をかき上げる。

「それじゃあ、そろそろ行きますよ。標的とは別に厄介な学生の二人組もいるみたいなんでね」

 そう言って電話を切り、男は激しい雨の中へと踏み出していった。

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