第1章 五月雨から落ちてくる月 <1>
第1章 五月雨から落ちてくる月
<1>
ぽつぽつと静かだが、確かな雨音で目を覚ました。
ベッドの上で横になったまま窓辺に顔を向けると、灰色の空がぼんやりと見える。窓には小さな雨粒が打ちつけられては、重力に従い下に線を描いていた。
懐かしい思い出のように朧げでもあり、つい昨日のことのように鮮明な、そんな矛盾した夢。あの日の朝もこんな天気だったな、なんてどうでもいいことを思いながら、枕元の時計を見る。今日は平日、学校に行かなければいけない日だ。ということは、そろそろ支度をしなければいけない時間である。
体を起こして、大きく伸びをする。大抵の夢であれば、その内容などすぐに忘れてしまうものだが、あの日の事となるとそうもいかない。
なんで今になってあの日の夢を見たのか。それはおそらく、この街を再び騒がせている、例の事件のせいだろう。
肌寒さを感じながら身支度を整え、階下のリビングへと向かう。
雨の日は学校なんて行きたくないのだが、『雨が降っていても学校には行きなさい』という約束がある。全く面倒なことこの上ない。そんな約束相手であり、魔法使いとしての師匠であり、唯一の家族である父は、長期の出張とのことで昨日から家を空けている。学校を少しサボったところでバレないだろうが、約束は約束だ。万が一サボりがバレたら、魔法を教えてくれなくなるかもしれない。
「……はあ」
大きくため息を吐きながら、ソファに深く腰かけた。目を瞑って雨音に耳を傾ける。ぽつぽつ、ぽたぽたと不規則なメロディを奏でる、僕の唯一の癒し。
いくらでも聞いていられるので、やっぱり学校はサボろうかなんて考えを浮かべながら、ふと今朝みた夢を思い出す。連続殺人事件、また起きてるんだったな。沈めた体を起こし、テーブルの上にあるリモコンを手に取ってテレビの電源を入れる。
「先日起きた連続殺人事件についてですが、先月に起きた最初の事件を含めるとこれで三件目となります。五年前にも同様の手口で行われたと思われる連続殺人事件との関連性を現在警察が調査中とのことです」
ニュースキャスターが淡々と、ある事件についての情報を伝えている。予想通りとはいえ、朝から物騒な話だ。僕の知る直近の事件は今週の初めに起きた事件だ。これで三件目。ニュースを聞くに四件目はまだ起きていないようだ。
……それはそうか。だってあれ以来、雨は降っていないのだから。この連続殺人が更新されるとしたら今日だろう。五年前は五件で終わったが、今回は何件続くのだろうか。いや、同一犯の仕業なら五年前の続きで計八件になる。間も無く二桁という、大記録突入間近だ。因みに被害者の数は、五年前と合わせればとうに二桁を越えている。全く、歴史に残る大事件である。
五年前の天罰事件と今回の事件が同一犯なのだとしたら、この空白の五年には何の意味があるのだろうか。誰もがすでに終わっていたものだと考えていた天罰事件。五年越しの悪夢の再来。犯人はいったい──
いや、考えても仕方のないことだ。僕には関係のない話。関係のない世界だ。そう、僕にとってはどうでもいいこと。
ふと意識を戻すと、朝の番組はいつの間にか凄惨な事件の報道から天気予報のコーナーに変わっていた。どうやら今日は一日雨が降り続くらしい。夜にかけて風も強くなるという。学校から帰ってきても雨が降り続いてくれるのは助かる。雨の日の日課をこなせるからだ。それが今の僕にとっての全てである。
支度を整えて、僕はいつもの灰色の傘を広げて学校へと向かう。学校なんて適当に終わらせて、早く帰ってこよう。
僕の生きる意味は、学校にはないのだから。
「よお! 灰夜! いつもと同じで時間ギリギリだなあ」
教室に入るなり、声のでかい男子に肩を叩かれた。
「別に、間に合ってるんだからいいだろ」
「良くないさ。親友である俺との素敵な会話をする時間が無いでしょーが!」
「いつから親友になったんだ……。あと、素敵な会話ってなんだ?」
朝からハイテンションな沢田から逃げるように自分の席に着く。そんな僕の素っ気ない態度も気にせずについてきて話を続ける。
「いつからって、中学の頃からの付き合いだろ? 俺は初めて話した時から親友だと思ってる。それがたとえ、片思いだとしてもだ」
「朝から気持ち悪いこと言うな」
中学の頃から一方的に構ってくるこの男子は沢田湊(さわだみなと)。いつもテンションが高く、明るい陽気な性格をしている。友人は多いし、容姿も整っていて女子にも人気らしい。他人との関わりを持たない僕と違って交友関係が広いのに、なぜかわざわざ僕みたいなのに絡んでくる。どれだけ素っ気ない態度で返しても、沢田は気にしないようだった。
「世間に疎い灰夜に面白い話をしたかったんだがなあ。どうせ知らないだろ? あの噂」
「噂? 当然、知らないよ」
俺の返答にうんうんと頷きながら、だと思った、と満足げにしている。
「それでこそ灰夜だ。何事にも興味を示さない、噂に耳を傾けない。初めて話した時から変わらねえなあ。周りに流されないのはいいことだと思うが、一人では生きていけないんだぞ? ……って誰かが言ってたな」
誰だったっけかなあ、と首を傾げて一人で悩んでいる。
「まあいいや。それで例の噂なんだけどな」
沢田が意気揚々と本題を切り出そうとすると、教室の扉付近が賑やかに騒ぎ出した。沢田が口を止めて、ナンダナンダと顔を向けるので、僕も賑やかな方へと視線を向ける。
「おはよう雪月さん! もう大丈夫なの?」
「おはよう! 全然大丈夫だよ!」
「風邪って聞いたけど」
「そう、ただの風邪。もう、そんなに心配しなくっていいよー」
「雪月が休むなんて珍しいからさー、なんかあったのかと思ったぜ」
「私だって人間なんだから風邪ぐらいひくよー」
どうやら一人の女子生徒をクラスメイト達が囲っているようだ。クラスメイト達は、代わる代わる輪の中心にいる女子生徒に声をかけている。
「あー、そういえば昨日休んでたな。にしても、相変わらず大人気だねえ、雪月は。男子にも女子にも」
クラスメイト達の輪には加わらず、僕と共に一歩引いた目線で沢田が呟いた。てっきり沢田なら、あの包囲網の一人に加わるのかと思ったが。
「今お前が考えてることは分かるぜ。俺だって雪月が心配だけどさ、あんな寄ってたかって大袈裟でしょ。雪月も内心困ってるだろうし、そろそろ出てくるぜー。番人が」
沢田がニヤニヤと見ていると、一人の女子生徒が席を立ち上がって騒ぎの元へと歩み寄る。
「ほら、散った散った! もうすぐホームルームなんだから晴月を開放してやりなって。病み上がりに無理させるんじゃないよ!」
その女子生徒は包囲網を切り裂いて輪の中心にたどり着くと、病み上がりの少女の腕を引っ張って包囲から脱っした。
「おはよう楓!」
「全く、律儀に付き合う必要ないんだから。体調はもういいの?」
「うん、大丈夫。ありがと」
騒いでいたクラスメイト達も散り散りに席に向かい始めるとチャイムが鳴り響いた。
「やべ、俺も席戻るわ。噂話については昼にまたな!」
そう言って沢田が席に戻るのと同時に、担任の成海(なるみ)先生が勢いよく扉を開けて入ってきた。
「にしてもさー、うちの担任は厳しすぎるだろ。そこそこ美人なんだからもう少し可愛げがあればなあ」
愚痴愚痴と言いながらカレーを口に運んでいる。時刻は昼、場所は食堂で、対面には沢田だ。
「それに比べてさあ、教育実習で来てる浅黄(あさぎ)先生はいい人なんだよなー、優しくって。……男だけど」
僕としては担任なんて誰でもいいし、教育実習生の浅黄なんて名前は初耳だった。それにしても沢田が男について「いい人」なんて褒めるのは意外だった。今までで初めてではないだろうか。そういう点では、その浅黄先生とやらに少し興味が湧いた。
「ま、いいや。それよりさ、朝の続きなんだけど、最近ニュース見てる?」
「暇つぶし程度には」
「おっ! 珍しいじゃん。まあこれだけ騒がれてりゃさすがの灰夜もな」
騒がれてる、というのは例の事件のことだろう。聞き耳を立てずとも、その話題は勝手に耳に入ってくる。
「最近さ、また街で起こってるじゃん。不良狩り。一昨日で三件目だぜ。犯人は捕まらず。狙われるのは不良や半グレたち。まるでマシンガンで撃たれたか、細いドリルで何度も刺されたような、穴だらけの異様な死体。完全に五年前と同じ、天罰事件の再来だ」
天罰事件というのは五年前から続く連続殺人事件の通称だ。被害者が不良学生や半グレだった為、二、三件目までは不良学生を巻き込んだ半グレ同士の抗争だと思われていた。だが、被害者が所属する派閥に見境がないこと、凶器の判明しない凄惨な死体。そうして、どこのどいつかが言い出したそうだ。まるで神の裁きのようだ、と。だから天罰事件。捻りの無いネーミングセンスで僕は好きじゃないが、この街では誰もが一連の事件を指してそう呼ぶ。
「必ず雨の日に事件が起こるってのも五年前と同じだな。なんか理由があんのかね? 雨の日にしか現れない神様ってのがいんのかな?」
「沢田は神様ってやつの仕業だと?」
「まさか。ただの人殺しが人を殺してるだけ。物騒な話だよな全く」
あーメシが不味くなるー、なんて言いながらスプーンに山盛りのカレーを頬張る沢田。そもそも自分で言い出した話題だろうに。
「それでさ、五年前も噂になったのは覚えてるか? 赤い傘をさした女の噂。こいつが犯人なんじゃないかって話だ」
「……ああ、覚えてるよ」
忘れるわけがない。なんたってその噂の女に僕は会っている。
「そいつがさ、また現れたんだよ、この街に」
現れた? あの女が?
「噂なんだけどさ、住宅街の反対の方にさ、幽霊ビルって呼ばれてる廃ビル、あるだろ? 有名な事故物件だ。なんでも雨が降ってる夜中にあそこに行くとさ、立ってるらしいんだよ。ビルの屋上に。赤い傘をさした女が」
「それ、本当なのか?」
「なんだなんだ、珍しく興味津々だな。なんでも人を殺した後でそこに立ってるらしいぜ。その目撃情報があった翌日にはニュースで新たな事件がーって話だ。つっても、あくまで噂だからなあ。俺の知り合いにも見たってやつがいるけど、どうだろうな。逆に灰夜はなんか知ってるのか?」
当然、何も知らないフリをする。連続殺人事件の犯人と噂される女と会ったことがある。こんな話をして面倒なことになるのはごめんだ。
「もしこの噂が本当だとしたらさ、その女はどういうつもりなんだろうな。普通、犯罪者ってのは姿を隠すもんだろ? わざわざ目立つようなことをして、挑発のつもりなのかね。まあ何にせよ、不良少年たちは今頃怯えてるだろうな。俺も夜遊びはほどほどにしねえとな」
「……」
沢田のいう通り、赤い傘の女の目的が不明だ。だが、そんなことは僕にとってどうでもいいことだった。
またあの女が街に現れた。それだけが重要なことで、連続殺人なんて好きにすればいい。ただ、あの女にもう一度会って言いたいことがある。
……そう、言いたいことがある……はずだ。
記憶に障害。
脳に異常。
心に違和感。
あれ? 僕はその女に何を伝えたいんだっけ?
「なあ、灰夜よ。やけにこの噂に興味を持つな。やっぱりなんか知ってるのか? まさか心当たりでもあるのか? その女に」
「いや、知らないよ。珍しく面白い話だと思っただけ」
怪訝な顔で此方を覗き込んできたので、その視線から逃げるように僕は残り少ないきつねうどんに視線を落とす。
そもそも僕の知ってる女と噂の女が同一人物だと決まってる訳ではない。だが、赤い傘の女と聞くと、どうしてもあの女が連想される。今朝の夢で見た、五年前の記憶。忘れることのない、数少ない思い出。赤い傘の女の目的。僕の前に現れたあの女の目的。
さて、僕の生きる目的とは、いったいなんなのだろう?
箸を止めて考え込んでいると、沢田が唐突に「そういえば!」なんて大声を出して僕の顔にスプーンを向けてきた。
「危ないから人の顔に向けるな」
「ああ、わりいわりい。別の話でもう一つ、噂話を聞いたのを思い出してな。俺的には存在不確かな赤い傘の女より、こっちの話の方が怖ぇよ」
わざとらしく両手で肩を抱き、体を震わせながら横目で視線を向けてくる。何やってんだと思いながら、無視して手元の丼からうどんを啜っていたら、段々と視線の圧が強まってくる。視線を向けると、沢田は先程のポーズで固まったまま、視線が合うなりウインクを飛ばしてきた。僕は観念して口を開く。
「……その噂ってどんな話?」
「それだよ! なんか俺の独り言みたいになりそうだったからさ、やっぱり会話はキャッチボールしないとな」
「対面の席のやつがあんなポーズで固まってたら目立つからな。僕にも羞恥ってもんがある」
「そうか、周りと関わらない灰夜にもそういうのがあったのか。なーんて、冗談はさておきだ。この話を聞いたら人は見かけによらないんだなあと思って、周りの人間にも興味を持てるようになるかもしれないぜ」
言いながらスプーンを器用にくるんと回し、ニヤケづいた怪しい笑顔を沢田は見せる。行儀が悪いし顔が気持ち悪いと言おうとしたが、めんどくさいのでやめた。
「これはさあ、こないだ入ったばかりの一年生から聞いた話なんだけどさ。うちのクラスのヒーローツッキーっているだろ?」
「ヒーローツッキー?」
「えっ、それ知らないのは流石に無関心すぎじゃねえ? 今朝クラスの連中に囲まれてた雪月晴月(ゆきづきはづき)だよ? スーパーヒーローの」
「雪月が今朝囲まれてた女子なのはわかる。そのふざけたセンスのない名前はなんだ? ヒーローツッキーって」
その女子には似つかわしくない横文字を口にすると、なんだか恥ずかしくなる。小学生じゃあるまいし、なんだそのストレートすぎるあだ名は。
「まさかそんな説明を同級生にしなきゃいけないとは思わなかったぜ。あいつはさ、一年の時から人助けに躊躇が無いんだよ。俺だって目の前に困ってる奴がいたら助けたいと思うけどさ、誰にだってキャパシティってもんがあると思うんだよな。誰も彼も俺がなんとかしよう! なんて言ってたら自分の時間が無くなっちまう。だけど雪月は違う。本当に片っ端から助けていくんだ。その中身が大なり小なりにな。喧嘩の仲裁からテストの予習、部活の助っ人とか、あと同級生の女子の家庭問題を解決したって話もあるな」
確かに大なり小なりの問題だが、それを全て助けてきたっていうのには少し驚く。周りに無関心な僕とは正反対な奴だ。
「それでついたあだ名がヒーローツッキーだ。突っ込まれる前に言うけど、雪月晴月で月が二つあるからツッキーね。でもこれ本人の近くで言っちゃダメだぜ? いつも隣にいるこわーい番人が怒るからな」
「朝も言ってたけど、その番人ってのは?」
「お前……本当にクラスの風景にも無関心なのな。秋瀬だよ。秋瀬楓(あきせかえで)。今朝も雪月を引っ張ってたやつだ。あの長い金髪で目つきの鋭い、ギャルっぽいやつだ。見た目に反して、うちのクラス委員長の秋瀬だ」
今朝のことを思い出す。確かに雪月を引っ張っていた女子がいた。あれが秋瀬なのか。基本的にクラスメイトでも顔すらあまり認識しないが、そんな僕でも顔に覚えのある女子だった。うちのクラス委員長、そんな名前だったのか。
「まあヒーローツッキーに秋瀬がつくようになってからは、人助けの頻度も少し減ってるらしいけどな。なんでも雪月に声をかけようとすると強烈な目力で追い払うらしい。番人ってか番犬だな……っと、話が逸れちまってたな。それでそのヒーローツッキーなんだけどさ、あいつ中学は他県だからあんまり昔の話は聞かないんだけど、なんでも中学時代に伝説を残してるらしいんだ。その伝説ってのが──って痛え!」
バゴンッと鈍い音が沢田の頭で鳴った。
「なんだぁ?」
本題に入ろうとしていた沢田の頭に、突如食器の乗ったトレーが降ってきたのだ。
「なーんの話をしてるんだあ? 沢田」
いつの間にか沢田の後ろに女子が二人立っていた。沢田の頭にトレーを振り下ろしたのは秋瀬だ。鋭い目つきで沢田を睨んでいる。その横には、話の主要人物である雪月もいた。
「げっ、秋瀬か。……今の話、どこから聞いてました?」
「こわーい番犬がいるってところから。誰が犬だって?」
「ちょっと前から聞いてたのね」
番犬って私のこと? 噛みちぎるわよ! と強烈な目付きで見下ろす秋瀬と、イヤマジスンマセンマジスンマセンとお経でも唱えるようにブツブツ繰り返す沢田。
「もうそれぐらいにしなよ楓。沢田くんも、陰口はダメだよ」
二人の間に入って仲裁する雪月。なんだか僕には似つかわしくない騒がしさだ。早くこの場から離れたい……そう思いながら残り少ないうどんを啜ってことの成り行きを見守る。
「こいつは一度懲らしめないとだよ晴月。全く、なんでこんなのが女子ウケいいんだか」
「それはこの顔じゃない? あと性格」
「その顔、整形してやろうか? 私の手で」
そう言いながら握り拳をグルグルと回す秋瀬。
「まあ謝ってる事だし、許してあげようよ。ね?」
「さすが雪月様! やっさしいんだから本当に」
「うん、でもね沢田くん。私の友達を悪くいうのは私も怒ってるかな。もう駄目だよ?」
「……そうだな、悪かったよ」
まるで親が子供に説教してるようだな、と思った。雪月はよしっと小さく呟いてから、それともう一つ、と付け加える。
「沢田くんが話そうとしてた私の噂だけど──」
何故か雪月はチラッと僕のことを見た。雪月と視線が合う。なぜこちらを? と疑問に思う間もなく、直ぐにその視線は沢田に向きなおる。そして、不自然なほどの満面の笑みで雪月は続けた。
「喋ったら、絶対許さないよ?」
「女ってこえーな。いや、ホントに」
言いながら沢田はちまちまとご飯粒を口に運んでいる。僕は食べ終わっていたので、沢田のことは気にせず携帯電話で天気予報を見ていた。朝のニュースから変わらず、朝から降っているこの雨は深夜遅くまで降り続くらしい。それなら今夜でもいいな、と思った。それは勿論、沢田からの一つ目の噂話のこと。赤い傘の女を確かめに行くことだ。
その後は沢田の他愛ない話に適当に相槌をうちながら、窓の外を眺めて考え込んでいた。連続殺人……これ自体はどうでもいい。僕の見知らぬところで見知らぬ誰かが死のうが関係のないことだ。だが、赤い傘の女の噂、これは放っておけない。別に予知能力なんて使えるわけでもないが、今夜行かないと後悔する。何故かそんな衝動が、僕の心を急かしていた。
早く夜にならないだろうか。沢田の話は勿論のこと、午後の授業はいつも以上に頭に入らなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます