第12話

「爺さんとは子供の頃からの馴染みでね。こんな私を好いてくれるようになった頃も、あの人は輝くような美少年でね。私なんぞに釣り合わないとか、さんざん言われたものだったよ。だけど、私は誰になんて言われようとも、あんたの爺さんが好きだったのさ」


 初老の女性と会計のカウンターへ行く時に、祖母の背中に手を添え支える優しい青年。輝くような美少年。祥子は唖然として言う。


「あの人が私の画集を買っていった」


 祥子は買って行ったと二回言う。

 こぼれた涙が着物の胸元ではたはたと音をさせてこぼれている。


 誰が何と言おうとも。

 あなたは初恋。

 かけがえのない、あなたは理由。あなたは光。

 誰に何と言われても、あなたは軌跡。あなたは青春。


 雅史は祥子が画集に添えた詩の一部を思い出す。

 誰に何と言われても、彼女は二百年の時を経て、彼との縁が結ばれた。


 「帰ろうか」


 もう画集を買う必要がないことを雅史は悟らされ、祥子を促す。


 そしてそれ以来、祥子の姿は見ていない。

 住み込みの家政婦も家を出たらしく、洋館の窓にはカーテンが引かれ、中は見えない。青銅製の門にも鍵がかけられ、入れない。


 誰が何と言おうとも、あなたは初恋。あなたは理由。

 誰に何と言われても、あなたは光。あなたは青春。


                       【 完 】

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あなたに会えたら死ねるのに 手塚エマ @ravissante

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