第6話

洋館の二階から一階の玄関先まで下りてきて祥子は草履を履く。

 祥子の後から外に出たのは一眼レフのカメラを首から下げた雅史、最後はメイクボックスを抱えた梶原だ。撮影中にメイク直しが必要になった場合に備えてのことだった。


「本当に満開で、なんて綺麗。私はいつも部屋の窓からしか見ないから、外に出てみると薔薇の薫りが胸に迫ってくるみたい」


 祥子は薔薇のアーチをくぐりぬけ、前庭まで出る。

 心なしか足元が弾んでいる。

 本職はイラストレーション画家だけあって、彼女のポージングには絵心がある。


 薄桃色の大輪に頬を寄せる祥子。

 芝生の上に彼女を仰向けに寝転がせ、白薔薇の花びらを彼女の上に散らしたり。

 ケガをさせないように注意しながらトゲ付きのまま、薔薇の蔓で彼女の両手首を縛ったり。

 ヌーディなメイクから、眉やまつ毛やアイライナーをブラックに変え、目元を強調したメイクに変えたりと、梶原も真剣だ。

 

「なんだか本業のモデルさんみたい」

「だろう? モデルはただの美人じゃダメなんだ」

 

 雅史はシャッター音を鳴らし続ける。


 ふと、祥子が描いているのは初恋の相手かもしれないと思えたように、自分も祥子を写真の中に残したい。祥子が本当は何歳だろうと、そんな気持ちに変わりはない。

 べた惚れと言った口調でレンズを向ける横顔が、梶原にはうらめしい。

 被写体としてはもちろん、祥子がたとえ二百年前に生まれたと言い張ったとしても、雅史はすべてを受け入れる。


「お疲れ様」


 雅史はレンズを下ろすと、祥子と梶原を労った。


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