第7話

「ありがとう。今日もすげえいい写真撮れたよ」

「少しはお役に立てたかしら」

「写真はモデル次第でイメージが変わるから。俺は祥子さんっていうイメージ通りの、レトロモダンな写真を撮ってみたかったんだ。ここは屋敷の中も前庭も全部レトロで綺麗だよ」


 薔薇のアーチの下で向かい合った今の祥子と雅史は、梶原が入り込む余地がないほど二人でひとりだ。

 

「これだけの御屋敷のお嬢様だもん。美人で当たり前でしょ」

「そんなこと決めつけられるか。劣性遺伝ってのもあるんだぞ」

「それじゃあ祥子さんは、お父様とお母様のいいとこ取りの優勢遺伝なのかもね」

「いいえ。父はジャガイモみたいにいかつい顔で、母はいつまでも少女のように童顔だったわ。だから私はどちらにも似てないの」

「じゃあ、祥子さんはお母様に似ていらっしゃるんじゃないですか?」


 梶原が祥子を褒めるのは宣戦布告に近かった。

 年は二百歳だの、家事も庭の手入れもすべて使用人に任せた優雅な美女を腹立たしく、妬ましく思わずにはいられない。


「そういえば、俺。祥子さんのご両親に会ったことってないんだけど」


 娘を屋敷に据え置いて、娘の世話は使用人にすべて任せた富豪の両親は、どこで何をしているのだろう。

 素朴な疑問が湧き上がる。


「両親は海難事故で亡くなったの」


 屋敷の中に向かいながら祥子は何でもないことのように、さらりと答える。


「えっ?」

「昔は船での移動が多かったから。旅行に出ていた私と両親のうち、両親は遺体で見つかって、私一人が生き残ったの」


 あまりにさらりと告げられて、雅史も梶原も瞠目する。

 

「そ……うか。そうだったんだね」

「それから私は歳をとらなくなったのよ」


 日も暮れだして夜気が足元からあがってくる。


「その時、私は十九だった。だから今でも十九歳なの」


 

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