第5話

 結局二人して祥子の言葉を受け止めきれずにいた。

 戸籍を調べようにも二百年以上前だと祥子は主張した。戦争で焼け野原になった東京に謄本自体が残っているのかどうかもわからない。


 二人してなぜ年を取らなくなったのかという根本的な理由が聞けていない。


「祥子さん。ちょっとだけ上を向いてもらえますか?」


 メイクを続ける梶原が祥子の顎に手を添えて上向ける。そのしぐさが堪らなく儚げで美しい。雅史は虚言癖があろうとなかろうと、これほど綺麗なんだから関係ないと、詰問自体を吹っ飛ばす。


 梶原は目じりに水色のアイライナーを少し入れ、着物とリンクさせている。

 目元の化粧は控えめで、真っ赤な唇が目立つメイクで完成した。


「どう? イメージに合ってる?」

「完璧。やっぱメイクは梶原に頼むのがいちばんだな」

「へー、あんたでもお世辞が言えるの?」

「お世辞じゃないから言えるんだ」


 雅史にべた褒めされて、梶原は胸がギュッと引き絞られるかのように痛みを感じた。完璧なのは祥子だからだ。


「祥子さん。疲れてない? 少し休憩取ろうか」

「私は大丈夫だけど、そちらの皆さんは?」

「私は大丈夫。私の仕事は終わったも同然だし」

「俺も平気。見ていただけだし」


 雅史と梶原は目と目を合わせて微笑する。阿吽あうんの呼吸で仕事ができる信頼関係そのものだ。


 



 

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