第4話 HEAD-CHA-LAへっちゃらな世界
1993年二月。
ぼくは憧れの西表島を訪れていました。神秘の森に幻の湖があるのだとテレビで見ました。
幻の湖……。なんて冒険に満ちた響きでしょう。行ってみたい。おら、わくわくすっぞ。
探検出発の前日、泊まったユースホステル管理人のお姉さんが、真剣な顔で言いました。
「まさか一人で島の縦断に行くつもりじゃないでしょうね。ダメよ。ゼッタイ」
ああ、帰ってこられない人がいっぱいいるって話はよく聞きますもんねぇ。だからですか?
「裸族が出るのよ」
!!!っ。「ぎゃーっはははっ」
あー、涙出ちゃった。
でもお姉さんは大真面目です。裸族が森を縦断しようとする旅行者を襲って、食料を奪う事件が頻発しているのだそうでした。
ふぅん、話は分かりました。でもさぁ、裸族なんて言うんですもん。そりゃ犯人は裸なのかもしれないけど、お腹をすかせた浮浪者とかホームレスとかって言ってくれれば、大笑いしてお姉さんを怒らせることもなかったのに。
1993年といえば、バブル崩壊で経済の冷え込みはもちろんですが、気候的にも、一年のうちで五月が一番暑いと感じるような、いわゆる冷夏が何年も続いたころで、西表の森にすむ浮浪者たちも、冷夏による山の作物の不作で多くの餓死者が出たのだそうです。テレビでは毎日、学者が氷河期の到来を予見して、世間は寒さによる食糧不足の未来に戦々恐々としていました。暖房器具がよく売れました。
寒くて海水浴客が来ないので、海の家の倒産も相次ぎました。トランスモンゴリア鉄道車内で出会った日本人兄弟が、たしか九十九里浜の海の家の権利を100万円で買わないかと持ち掛けられているが、この冷夏続きでは要らない、みたいなことを言っていたので、その話、ぼくに紹介してください、と約束しました。まぁ、そんなことがあったので、行きついたフランスからは、とにかく資金を稼ぐためすぐに帰国する方向に全振りしました。パリでのすったもんだはいずれまた。
しかし、ね、つまりほんの三十年前は、世間は氷河期だ寒冷化だって言ってたんです。温暖化だCO2だって騒ぎ出したのいつ頃でしたっけ? ぼくは「あー、そろそろ暖房器具が世界中に行き渡って売れなくなってきたから、反対のこと言って今度は冷房家電を売りたいんだなぁ」と思っていました。
令和になり、そろそろ冷房器具販売も頭打ちになって久しいから、でも安直にまた暖房にシフトしたら露骨過ぎてどうかなぁ、と思っていたら、新型感染症が登場しました。よくやるよ。なめてんな、と思います。
平安時代は現代よりもうんと気温が高かったのだそうですよ。でも本当に温暖化するなら、いっそジュラ紀とか白亜紀とか、生物が巨大だった頃くらいがいいな。絶滅した生物とか復活してて、ニュージーランドの森にモアとかいて。
お気づきかもしれませんが、ぼくは「左手に宿っている何かが疼きだす病」が一向に治る気配がないのです。恐竜がいたら♪玉乗り仕込みたいね~、と歌っちゃうのです。
捕まりました -The Real World- 井荻のあたり @hummingcat
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