自宅がお化け屋敷

桐原まどか

自宅がお化け屋敷



発明家のw氏がまたしても、へんてこなものを作った、と聞いて、やって来たT氏。彼は非常に貴重な体験をする羽目になる…。

今回の発明品、その名も<自宅がお化け屋敷>だ。

要はバーチャルリアリティを駆使した、自宅にいながら、恐怖体験を味わえる、というものだ。

『…ホラーゲームと何が違うのかねぇ…』と、甘く見ていたT氏。

早速体験すると…「ひぎゃああぁ!」「やめてくれ!」「馬鹿野郎、こっちに来るな!」。

w氏、にこにこ顔で感想を問うた。

「怖いのは認めます。だけど、世界観がめちゃくちゃですよ。廃校の校庭の片隅にある枯れ井戸から、どうしてブロンドヘアの吸血鬼が出てくるんですか?しかも一緒に廃校巡り…」「それは説明もあったと思うが、彼女が人間に戻る為の秘薬が校内に隠されているからだ」

「なんで枯れ井戸なんですか?」「ハッハッハ、わからんかね?棺桶代わりだよ。棺桶がデーンと置いてあるより、井戸からの方が日本らしいだろう?」

「そうですかねぇ…。それから校内に響いてる、あのノイズ…黒板を引っ掻いてる音、ですか?あれ、正直、不愉快なだけなので、やめた方がいいと思いますよ?」

「何を言うんだね。わかっとらんな、君は。音の正体を探るべく、辿り着く先に秘薬のヒントがあるのだ。わかりやすいだろ?」

「だからって、その正体が、どうして口裂け女がひたすら黒板引っ掻いてるんですか?意味、わかりませんよ。しかも自分から、ポマード連呼して自滅したし…」

「口裂け女、というのは、いわば<トイレの花子さん>と並ぶ、都市伝説の象徴だ。入れたかった。彼女の長い爪なら、黒板を引っ掻くのにピッタリだろう? 自滅は…まぁ、サービスだ」

「どこがサービスなんですか?」

「最近の若い子の中には<口裂け女>の弱点を知らん子がいる。その為だ」

「そりゃあ、また…」

他にもやれ、大量の白塗りの子供やら、「殺人は気分転換なんだ」と言いながら、ドリルを持って追いかけてくる人形。死肉にありつく為、歌うも何故か音痴な人魚など…。

「面白かったろ?」とw氏。

「世界観を統一すべきです。あと色々著作権ぎりぎりな気がします」とT氏。

「君には柔軟性がないねぇ…オマージュだよ。私は先達たちを尊敬しているのだ」

―ああ言えばこう言う…ダメだ、こりゃ。T氏、諦める事にした。が、最後に言うべき事があった。

「ゾンビに噛まれた痕が、腕にくっきり残ってます。これはやり過ぎでは?」

そう言った途端、w氏が見る見る青くなっていった。「私は…そんな機能はつけていないが…」

「えっ?見てくださいよ、この歯型を」それを見たw氏、いよいよ顔色が無くなった「そんな馬鹿な…」と呟き…。

「Tくん、君、もしもゾンビになったら、うちで働くかね?」と言ってきた。

「嫌ですよ!薬なりなんなりあるんでしょ?さっさと打ってください」

「そんなもの、ないよ」

「はぁ?じゃあ、僕は…」

※※※※

駆け込んだ病院。血液検査の結果は異常なし。

もう二度とw氏には近付くまい…誓ったT氏であった。そらっとぼけていたが、この噛み跡も、あのw氏の仕業なのだろう…。

※※※※

その頃、w氏はT氏の体験映像を確認していた。

そもそもゾンビは威嚇のみで危害を加えたりする設定ではないのだが…。

確かにT氏に襲いかかっている。と。ゾンビがこちらを見、明瞭な声を発した「よくも我々をこんなところに閉じ込めたな…必ず脱出してやる…」

w氏が後日、寺の住職やら、牧師やらを片っ端から呼び、家を浄霊して貰ったらしい、と噂になった。

<自宅がお化け屋敷>がどうなったのかは謎である。恐山のイタコに預けたとかなんとか…。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

自宅がお化け屋敷 桐原まどか @madoka-k10

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ