第31話 特別

人が人に何かを与えるのは当たり前だはなく、その人の優しさと思いやりによるもの。


人が人のために何かするのは、過去に自分も誰かに何かをしてもらったこたがあり、そのとき感じた優しさや嬉しさ、喜びを返したいという思いや、人の幸せそうな顔が見たい。


沢山の人を笑顔にしたいという、その人の願いによる行動のもの。


与える人、何かをしようとする人達は見返りを期待してしているのではなく、自分がしたいからそうしているだけのこと。


何も与えず、求めるだけの人に人はついていかない。


二人のことを未桜はそんな人間だと思っている。実際、未桜の思っている以上に二人は自分のことしか考えていない。



二人と違い未桜はこれから結婚する男は優しさや思いやりをもった人ではないかと思った。


寧々が自分を馬鹿にしようとして相手の事を話したが、結果的にこの人とならいいかもしれないと何となく思った。


そう思った理由は、妖魔との戦いで全身を焼かれずっと包帯をし、左腕と右目を失ったと寧々は言っていた。


腕の立つ陰陽師の全身を焼くほどの力をもっている妖魔は日本には四体しかいない。


四体全員残虐非道な妖魔。人を殺すのを楽しむ悪妖として四大害と呼ばれている。


九尾の雅。


烏天狗の紅羽。


鬼の天童寺。


鬼の羅雪道。


その内の鬼の羅雪道は二年前何者かに殺された。


殺したのが誰かかわからず陰陽師も妖魔も警戒していたが、二年経っても何も起こらなかったので、羅雪道との戦いで死んだのだろうと言われている。


全身を焼くのも腕を奪うのも四体ともできるが、目を奪う趣味があるのは九尾の雅だけだ。


未桜は男は雅との戦いで倒すことは出来なかったが、己の役割を果たそうとした。


四大害を前にして逃げずに立ち向かった男を心の底から尊敬した。


未桜はそこにいなかったから男が本当に立ち向かったかはわからない筈だが、何故か自分の結婚相手はそんな男だと思った。


理由はわからないけど、そう感じた。


会ったこともない人との結婚は本音をいえば気乗りはしないが、嫌な人との結婚よりは全然いいなと。


「末姫さん。寧々。私は貴方達二人のことを悲しい人だと思う。人を外見や肩書きだけで判断し、それで人の価値を決める。それでしか、人の価値を見ることができない。それは、とてもさみしいこ…」


パーン。


まだ、未桜が話しを続けようとしていたが、末姫が思いっきり未桜の頬を叩いた。


その衝撃で話すのを止める。


頬がジンジンと痛むが、話しを再開しようと口を開こうとすると今度は反対の頬を叩かられる。


それでも尚、口を開き自分の思っていることを絶対言ってやるという気持ちで声を出そうとする前に頬を叩き続ける。


末姫の息が上がる。右手は未桜の頬を叩き続け赤く腫れがる。痛みで手に力がはいらず叩くのを止めてしまう。


未桜の頬は末姫に叩かれ過ぎて両頬は赤く腫れ上がる。


口の中が切れて血が口に広がる。着物の上に血が落ちて染み込んでいく。


「人を傷つければ自分も傷つけられる。人を蔑めば自分も蔑まれる。人から奪ったものは自分も奪われる。人にした事は必ず返ってきます。それが良いことでも悪いことでも。貴方達は自分のことを特別だと思っている。だから、自分が正しいと信じて疑わない。でも、いい加減気づくべきよ。それは間違いだと。自分達は特別な人間でないと」


特別な人間とは何だろか。


人より強く生まれたもの。


人より頭が良いもの。


人より美しいもの。


これは特別だろうか。


いいや、そうではないと未桜は首を横に振る。


本当の特別とは、この世に産まれた人全て。


未桜はそう思っている。


この世に産まれた人全てが誰とも違う。全く一緒な人などいない。


似ている所はあっても同じではない。


似ているから共感することができ、違うから協力できる。


人は皆違うから、誰一人同じ人などいないから、自分の代わりなど誰にも務まることなどできないから、この世に産まれた人全てが特別な存在だと。


だから、未桜と二人の特別だという認識は違っていた。


未桜は人は決して誰かの代わりになることはできない。だからこそ、皆特別なのだと。


二人は自分達は人の上に立つ人間。選ばれた人間。だから特別な存在だと。自分と他では格が違うと。


そう思っていたのに、それをたった今二人は未桜に否定され自尊心を傷つけられた。


未桜は二人の自尊心を傷つけるとわかった上で話しを続ける。


「今ならまだ間に合うわ。幸せになりたいのなら考え方を改めなさい」


このまま変わらなければ二人の未来は破滅に真っしぐらだと未桜には視えていた。


「さっきから、黙って聞いていれば何様のつもりよ」


未桜と末姫のやり取りを黙って見ていた寧々が声を荒げる。


「(あんた如きが私に指図するな。ああ、本当にむかつく。その目で私を見るな)」


髪の毛を手でギュッと掴み未桜を鬼のような目で睨みつける。


「私は桐花家次期当主、桐花寧々。当主の座を剥奪されたあんたとは違うのよ!あんたにそんなこと言われる筋合いなんてないのよ!」


自分と未桜では格が違う。剥奪された未桜が次期当主の自分に意見することじたい許せない。


冷静な未桜。


怒り狂って叫ぶ自分。


それすら許せない。


血が。自分には流れていない血が未桜には流れている。だから、未桜は自分を見下しているのだと。


そんなことありえないのに、寧々は自分が未桜にそうしているから自分もされていると勘違いする。


未桜は明日自分はこの町から追い出されるから、この町の未来を想って話しているだけ。


だが、未桜の想いが寧々に届く筈もなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

桜姫の寵愛 知恵舞桜 @laice

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ