第30話 死

陰陽師の死は普通に生きている人達の死とは訳が違う。


妖魔との戦いに負ければほぼ百のに近い確率で死体は残らない。


妖魔に食べられてしまうのがほとんどだ。極稀に食べずに遊び道具として傍に置いている妖魔もいる。


妖魔が人間を食べるのは栄養になるからだろうと言われている。


その中でも特に霊力がある人間は妖魔にとって自分を簡単に強くするためのいい餌だ。


そのため陰陽師が妖魔との戦いに負ければ食べられるのは、それが理由だった。


食べる妖魔は食べず遊ぶ妖魔に比べるとまだ良い方だと陰陽師達は思っている。


遊ぶ妖魔達は揃いも揃って冷酷で残虐。負ければ、言葉では言い表せない程の地獄を味わうことになる。


殺して欲しい。


そう思ってしまう。



捕まってしまった仲間を助けようとした陰陽師達はその光景を見て、自分はこうなりたくないと大半がその場で自殺してしまう。


中には自殺しない者もいるが、その内ほとんどが陰陽師を辞めて家に引きこもってしまう。


勇敢に立ち向かう者もいるが恐怖に支配され、体が思うように動かず捕まってしまう者もいる。


妖魔に強い怒りを覚え倒す者達もいるが、これは本当に一部の者達だけ。



だが、これ以上に陰陽師達が恐る死に方がある。


それは、妖魔達との戦いに負け強い憎しみや恨みを持ったまま死んでしまうと妖魔の妖力が体に入り悪鬼として蘇ってしまうこと。


悪鬼は妖魔とは違い死んだ人間の強い憎しみや恨みでなった者達もさす。


悪鬼になると生きていた頃の記憶はなく、ただ殺されるまで人間を殺し続ける。


どれだけ生前人を助け人に感謝されようと悪鬼になった瞬間誰彼構わず人を殺してしまう。


悪鬼になった瞬間から人として見られず化け物として仲間に殺される。


こんなに嫌な死に方はない。


陰陽師達は絶対に悪鬼になって殺されるのだけは嫌だと思っている。


悪鬼になる確率は低いが陰陽連が把握しているだけで、二百体はいるとされている。


全ての悪鬼が陰陽師だった者達ではないが悪鬼になってしまった者達もいる。何が原因で悪鬼になったのかは未だに誰も把握できていない。



残り一割の陰陽師の死に方。


陰陽師で幸せな死に方をするのはほんの一握り。まぁ、これに関しては陰陽師であろうがなかろうが大した差はないだろう。


寿命でこの世を去る。


大切な人に見守られてこの世を去る。


笑顔でこの世を去る。


他にも例を沢山上げれば幸せな死に方はでてくるだろうが、これだけでも幸せすぎる死に方だろう。


不幸な死に方も大して違わないだろう。


自殺。事故。殺し。過労死。自然災害によるもの。


特に殺しはいつどこで誰がそうなるかわからない。


普通に暮していても次の日に殺されてしまうこともある。


いつどこで誰に恨まれるなんてわからない。自業自得で殺される者もいれば、理不尽な恨みで人に殺される者もいる。


陰陽師でなくても普通に暮らす人達の中にも不幸な死に方をする者は結構いる。


どれだけ善人に生きようと死に方なんて誰にも選ぶことなんてできない。


運みたいのものだ。


陰陽師ともなれば尚更だ。


陰陽師になると決めたからには幸せな死に方などできないと覚悟を決めないといけない。


もちろん、全員が覚悟を決めれるわけではない。そうでない者達もいるだろう。


でも、それは普通のことだ。


死を覚悟するなんて並大抵のことではない。


口で言うのは簡単だが実際死を目の当たりにしたら逃げだすものだ。


誰だって死にたくはないのだから。


まだ生きていたいと思うのは人間として当然の感情だ。


本来人間とはそういう生き物なのだから。


だが、死を目の当たりにしても逃げない者達はいる。


今回未桜が結婚する相手はそういう人間なのだと話しを聞いて思った。


自分よりも遥かに強い相手に出会し逃げずに戦うのがどれだけ勇気のいるものか。



陰陽師でない人達の中には妖魔を倒すことができず逃げ帰ってきた者に酷い言葉を投げるときがある。


臆病者。弱虫。腰抜け。使えないクズ。


罵声を浴びせるだけでなく中には石を投げる者もいる。


陰陽師なのだから妖魔を倒せて当然だと思っている人達は以外に多い。


勿論、全員がそういうわけではない。心配で自分にできる限りのことをしようとするものやいつも私達の為にありがとう、と感謝する者達もいる。


だが、命がけで戦う者達に対して罵声を浴びせてもいいという人達の考えは未桜には理解できなかった。


人が自分のために何かするのは当然。


そう思っている人間が大勢いる。特に貴族達はそういう考えのものが多い。


自分にとって使えるものかそうでないものかでしか人を判断できない。


そして、今未桜の目の前にいる二人もそういう者達と同じ考えでしか人を見ていない。


可哀想な人達だと未桜は思っていた。


そういうものでしか人と接することができないのは。




未桜の今の人生は決していいものだとは言えない。寧ろ酷いと言えるだろう。


それでも、めげずに頑張っているのは人の優しさや温もりを知っているから。


大切な人達が今もどこかで生きている。


同じ空の下で元気に過ごしている。


そう思うだけで辛い毎日を頑張ることができた。


どうして、そんな辛い毎日をおくっているのに生きていけるのかと聞かれたら、少し考えた後未桜はこう答えるだろう。


「夢があるの。大切な人達ともう一度あの頃のように暮したいの。いつ叶うのかはわからないけど、もしかしたら叶わないかもしれないけど、今ここで逃げ出してしまったら私は皆に合わす顔がない。会う資格がなくなる。自分の夢が叶う日がきっとくると私は信じている。そのためなら、私はどれだけ辛い道のりでも諦めず歩き続ける」


太陽の様に眩しい人。


未桜と関わったことがある人は未桜を太陽みたいな子だと思っていた。

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