第13話 謝罪


「いい加減にするのは貴方の方ですよ」


未桜に拳が振り下ろされる前に腕を掴む青年。


「離せ。てめぇには関係ねぇーだろう。親子の問題に他人がしゃしゃりでてくんじゃねーよ」


掴まれてない方の手で青年に殴りかかろうとするも簡単に避けられてしまう。


「確かに関係ないが目の前で子供が殴られるのを黙って見過ごす様な大人にはなりたくないんでね」


青年の言葉に周りで見ているだけだった大人達は自分達に言われていると思い居心地が悪くなった。


「ハッ。大層ご立派なことで」


男は馬鹿にしたように吐き捨てる。そしてもう一度青年にむけて拳をくりだす。


ボコッ。青年の左頬に直撃した。


「ハハッ」


まさか、自分の出した拳が青年に当たるとは

思わず驚く男。


「(いける。こいつ本当は大して強くねぇな)」


青年に拳を当てたことで調子に乗る男。もう一度殴ろうと拳を繰り出そうとしたとき青年と目が合い、ヒュッと喉がから音が鳴った。


青年の目は冷たく真っ黒で何も映していない。自分と目が合っているのに合っていない気がして男は何ともいえない恐怖に包まれた。


「(殺される)」


そう思った瞬間体が宙に浮き気づいたら地面に叩きつけられていた。


男も周りで見ていた人達も何が起きたのか分からずただ呆然とその光景を眺めていた。


「少し落ち着きませんか。これ以上は無駄だとわかったはずです」


自分を力で捻じ伏せるのは貴方には無理だと遠回しに教え話し合いです解決しようと促す。


男は青年の美しい笑みを見てこれほど人に恐怖を与える笑みはないと感じ必死に頷いた。


「そう。わかってくれて嬉しいよ。たてるかい」


男に手を差し伸べる青年。


大の大人を片手で軽々と起き上がらせる青年。


男は意気消沈という言葉似合うほど静かになった。


「君、大丈夫かい。怪我は」


弦夜の目線までしゃがみ込み心配する青年。


「はい。大丈夫です。ありがとうございます」


少し涙目になっているが青年にお礼を言う。


大人の男に殴られて痛くないはずない。それに殴った相手は実の父親。精神的にも痛いはずだと思う青年。


必死に痛みに耐え自分の愚かな行動を反省している姿をみて青年は「君は強いな」と弦夜の頭を優しく撫でる。


その瞬間弦夜の瞳から一筋の涙が流れた。青年の手が優しく温かったから、必死に泣くのを我慢していたのについ緩んでしまった。


「できるね」


青年が簡潔に言う。


「はい」


弦夜は自分が今何をしないといけないかわかっていた。青年にそう言われてちゃんとしないといけないと思った。


弦夜は少年の所まで近づき頭を下げて「ごめんなさい」と謝罪した。


「君は何も悪くないのに、俺のせいで酷い目にあった。俺がもっと早く親父に本当のことを話していたら君はこんな目に合わずに済んだ。俺に本当の事を言う勇気がなかったから。本当にすみませんでした」


頭をもっと深く下げて少年に詫びる弦夜。


未桜の後ろでずっとことの成り行きを見守っていた少年はいきなり弦夜が自分にむけて謝罪する姿にどうしていいかわからず戸惑ってしまう。


助けを求めて未桜を見つめる。その視線に気付いた未桜が少年な頭を優しく撫でそっと背中を押す。


少年は何を言えばいいかわからなかったが、自分を見つめる瞳や頭を撫でてくれた手が優しく、君なら大丈夫と言われた気がした。


「気にしてない。言ってくれてありがとう」


少年の声はとても小さかったが弦夜と未桜の耳にはしっかり届いていた。


本当はまだ怖かったけど未桜が後ろで見守っていてくれたお陰で謝罪を受け入れることができた。


「チッ、クソ餓鬼共が」


二人の少年のやりとりをみて胸糞悪いと舌打ちをする男。


「おい、さっさと帰るぞ。弦夜」


男が弦夜にむかってそう叫ぶ。これ以上ここにいる必要はないとこの場を去ろうとする。


弦夜は未桜と少年、青年に深く頭を下げ男の元へと向かう。


「待ってください」


この場をを去ろうとする男に声をかける。


未桜の制止にまだ何かあんのかと苛立つ男。


「帰る前に貴方は何か言うことがあるのでは」


「ねぇーよ。あるわけねぇーだろう」


吐き捨てる様に言う男。もう、いい加減にしてほしいと態度にだす。


「本当にありませんか。貴方は罪のない子を盗人呼ばわりした挙句、侮辱し暴力まで振るいました。それも全て貴方の勘違いで何の関係もない子をです。違いますか」


未桜の迫力にたじろぐ男。


周りで見ていた人達も「確かに、言うことがあるはずだ」「勘違いであそこまでやるなんて大人として恥ずかしい」「息子は謝罪したのに、父親はしないのか」と同調する。


さっきまでは男の味方だったが少年が無罪だと分かった途端手の平をひっくり返す。


「そ、それは…」


言葉につまる。未桜の言っていることが男にも正しいとわかる。


でも、自分は名のある商人で相手は下民の子。意地でも謝りたくない男。


こいつらさえいなければこんな事にならなかったと未桜と青年を睨む。


「もし反論がないのでしたら、どうかこの少年に謝罪を」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る