第12話 犯人



少年は青年と目が合い「(まずい。今すぐここから去らないと)」と感じた。


手に待っていたのを急いで袖の中に隠してこの場を立ち去ろうとするが「待った。そこの少年、こっちにおいで」優しい声で青年が声をかけてくるが断ることは許さないという意志が伝わってくる。


周りの人達はいきなり何だと青年が見つめる方を向く。


周りの人達の視線が全て自分に集まり、何とも言えない気分に陥り体が固まってしまう少年。


「君だよ。こっちにおいで」


青年が少年にこっちにくるようもう一度促す。


何故、今関係のない少年をこの場に呼んだのか、青年の意図が読めず困惑する未桜。


それでも、何か考えがあるのだろうと思い黙って見守ることにした。


「弦夜」


男の知り合いなのか少年の名を呼ぶ。


「弦夜、てめぇ何でここにいる」


「親父には関係ないだろ」


弦夜が吐き捨てるように言う。


弦夜の口から親父という言葉が出てきて二人が親子なのだと知り未桜と青年は驚いてしまう。


「てめぇ…」


弦夜に殴りかかろうとする父親を止め「君は何故ここに」と青年が話しかける。


「別にあんたには関係ないだろう」


「確かに私には関係ないが、彼らにはあるだろう」


意味深なことを言う青年に頭を傾げる三人。


弦夜は青年の言葉に心当たりがあるのか顔が青くなっていく。


「おい、それはどういう意味だ」


弦夜が何も言わないので痺れを切らして青年に尋ねる父親。


「そのままの意味ですよ。私から言ってもいいですが、自分の口から言ったほうがいいのでは」


弦夜にむかって諭すように言う青年。


「おい、弦夜。何か言うことがあるのか」


父親が弦夜に詰め寄る何黙ったままで何も言おうとしない。

 

仕方ない。弦夜に自分から言う機会を与えたがそれを無視するのならどうしようもないと諦める青年。


「少年。左袖の中を見せてくれない」


サッと左腕を後ろにやる弦夜に父親は「弦夜

、さっさと見せねぇか」と言うと左腕を掴み袖の中に手を入れる。


「ん?これは」


袖の中に何かあったのを掴もうとするが、必死に抵抗する弦夜によって上手くいかない。


しばらくして父親が袖の中にあったのを出すと父親の顔が強張った。


「弦夜。てめぇが何でこれを持ってんだ、えぇ」


父親が手にしていたのは簪で、その簪こそ盗まれたといわれていたものだった。


まさかの息子の弦夜が盗んでいたとは知らず怒りが治まらない父親。

 

弦夜は父親に簪を盗んだ事がバレて頭が真っ白になる。


いつもなら、上手い言い訳の一つや二つすぐ思い浮かぶのに今日は全然思い浮かばなかった。

 

父親は何でこんな事をしたのかと怒鳴り散らす。中々言おうとしない弦夜に痺れを切らしてまた殴りかかろうとするが青年に落ち着くよ宥められる。


きちんと話しなさいと、青年に言われてゆっくり盗んだ訳を話し出す。

 


少年が簪を盗んだのは好きな子に渡したかったからしい。


父親から最初は譲ってもらおうとしたが、その簪が一点ものの上等な代物のため譲って貰うのも買うのも難しいと悟った。


それでも、どうしても好きな子に渡したかったから盗んでしまったと。


「ごめんなさい」


青年にむかって謝罪をする。

 

青年は弦夜の気持ちを痛い程理解できた。自分にも昔そんなことがあったから。


でも、だからこそそれはいけない事だと伝えた。


「好きな人にいいものを贈りたいと思うのはいいことだ。でも、盗んだものを貰ったとこでその子は本当に心の底から喜べると思うか」


青年の問いに首を振る弦夜。


「例え、安物だとしても心が篭った贈り物は嬉しいものだ。その人が自分のために選んでくれたのだから」


自分はそう思うと少年に言い君は違うのかと問う。


「ごめんなさい」


弦夜の頬に涙が流れていく。


自分のしたことに気づき反省している。


「謝って許されると思っちゃるんか、このボケ」


ボコッ。頭を殴られた音が響く。弦夜は殴られた衝撃で尻餅をつく。


青年は男のまさかの行動を予想出来ず反応が遅れた。いや、男なら人前で自分の子供でも殴る筈だと予想できたはずなのに自分の子供にはそんなことしないと勝手に思い込んでしまった。


周りの人達も流石に男の行動に理解できず立ち尽くしてしまう。


誰も動かない中一人だけすぐ動き弦夜と男の間に割って入る未桜。


「あなたは自分が今何をしたのかわかっているのですか」


父親に向かって怒りをぶつける未桜。


「また、お前か。いい加減にしろよ、くそ女」


何回も未桜に邪魔された事を思い出し一発殴って黙らせようとする父親。

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