第11話 青年



「誰だ、てめぇ離しやがれ」


男の拳が未桜に届く前に青年が男の腕を掴む。振り払おうとするも力が強く振り払えない。


腕を掴んだままの青年に文句を言おうと振り返ると自分よりも背が高い青年に驚く男。文句を言おうとした口を閉じ目を逸らす。


「暴力はよくないですよ」


ね、と男に微笑み圧をかける青年。


青年の迫力に臆したのか「はい」と小さく同意する。

 

自分のときとは打って変わった男の姿に少し複雑な気持ちになる未桜。

 

男が大人しくなりこれ以上暴れないと判断した青年は男の腕を離す。青年につかまれていた腕が痛むのか腕をさする男。


「どなたか存じ上げませんが、助けて頂きありがとうございます」


青年に頭を下げてお礼を言う未桜。後ろにいた少年も未桜が頭を下げたのを見て慌てて頭を下げる。


「いえ、間に合ってよかったです。怪我はありませんか」


「はい、ありません。お気遣い感謝します」


未桜の言葉を聞いてホッとする青年。


「ところで一体何があったのですか」


来たばかりで状況がわからない青年。未桜が殴られそうになっているのが目に入り急いで止めに入ったので説明を求めた。


青年の問いに未桜が先程までの出来事を説明する。


「なるほど、そういうことですか」


説明を聞いた青年の顔が険しくなる。


そう言った青年の言葉が何故か引っかかりどういう意味か聞こうとする前に男が青年に話しかける。


「兄ちゃんも今の話を聞いてわかっただろう」


俺が正しいだろうと青年に同意を求める男。


男を無視して未桜と少年を守るようにして立つ青年。


「ええ、もちろん。この少年は何も悪くないと」


「そうだ。少年は何も悪くな…えっ」


青年が少年の見方をすると思わなかったのか青年をじった見つめる男。


「落ち着いてよく考えてください。簪が紛失したときに偶然外にいただけで盗人と決めるのは些か強引ではありませんか」


「でも、こいつは俺と目があってすぐ逃げ出したんだぞ」


こいつで間違いない、俺は間違っていないと青年に詰め寄る。


「大切な簪を無くして今みたいに取り乱していたのでは、そんな姿を見たら誰だって逃げ出しますよ」


青年が男の誤解だと優しく諭すように言うと急に何も言わなくなった。

 

男は何故未桜と青年が自分の味方ではなく少年の味方になるのかわからなかった。自分は間違っていないと。少年が盗んだとそう確信していた。それなのに何故。頭の中で答えの出ない問いを繰り返し一つの答えに辿り着く。


「フッフッ、アッハハ。あー、そういうことか」


急に笑い出し一人で勝手に納得する男。


「お前らぐるだろ、そうなんだろう。さっきからおかしいと思ってたんだ。馬鹿にしやがって、クソが」


男は三人に向かって怒鳴りつけ青年に殴りかかる。


男の拳を受け止めて落ち着くように男を宥めるが目は血走っていて焦点は合わず、興奮して暴れだす。


流石に、周りにいた人達も何かおかしいと気づきだす。


「落ち着いてください。それは誤解です。私達は今日初めて会いました」


男を宥めようとそう言う未桜。


青年は一瞬傷ついたような顔するがすぐに元に戻ったので自分の見間違いかと思う少年。


「うるせー、くそ女。何が誤解だ。俺は何一つ誤解などしてねぇー。そのくそ餓鬼が俺の店から簪を盗み、仲間のお前らが庇ってる。そうだろうが。何一つ誤解などしてねぇ」


「僕じゃない。僕は何も盗みんでない」


未桜の後ろにいた少年が自分ではないと訴える。


体は震え目には涙が溜まっているが泣かないように必死に我慢している。


「まだ言うか。お前以外誰が盗むんだ。お前みたいな下民の子以外ありえねぇーだろ」


少年を殴りそうな勢いで叫ぶが青年が男を掴んでいるので殴られることはなかった。

 

男の言葉に未桜はようやく納得した。少年が盗んだところを見たわけでも、簪を持っているわけでもないのに、何故少年を犯人と決めつけているのか。


それは少年が下民の子だからと勝手に犯人だと決めつけていたたのだと。

 

未桜は自分の手を強く握りしめ爪が肌に食い込むほど強く握りしめた。


ハッとして少年は大丈夫かと振り向くと酷く傷ついた表情をしていた。


「いい加減にしなさい。貴方は今自分が何を言ったのか理解しているのですか。罪のない少年を犯人にしたてあげ、故意に傷つけて恥ずかしくないのですか」


これ以上はもう許すことはできない。必ずこの男から少年に謝罪をさせると決意する未桜。


「テメェこそ、そんな盗人のくそ餓鬼を庇いやがって恥を知れ」


少年を庇う未桜。少年を犯人だと決めつける男。泣く少年。


異様な光景に周りにいた人達はただ見ているだけだった。そんな中青年は周りの人達を見ていた。


すると、物陰に隠れていた一人の少年と目が合った。

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