第10話 騒動

「うん、やっぱりここの団子は最高だな」


助おじさんが作った団子は日本一の団子。全国から団子を目当てでくる人は結構いる。


それほど助おじさんが作る団子は美味しい。


「待て、このくそ餓鬼」


団子を食べていると離れたところから男の怒鳴り声が聞こえた。何かあったのかと思い助おじさんに一言言ってから怒鳴り声が聞こえた方へと向かう。

 

声のした方へ歩いていると男の声が鮮明に聞こえてくる。酷い罵声だった。未桜は足を早めて急ぐ。


未桜が目的の場所に着いた頃結構な人がいたため未桜は何が起きているのか見えなかった。


「すみません」


そう言って人溜りの中へと進んでいく。


何とか一番前まで行くと未桜が目にした光景は「このくそ餓鬼」と男が少年の胸ぐら掴んで殴りかかろうとしているところだった。


周りにいる人達は傍観しているだけで誰一人助けようとしていなかった。


きっと未桜がここにくるまでの間ずっとそうだったのだろう。少年の頬が赤く腫れていた。


「やめなさい」


男と少年の間に割って入り、少年を自分の後ろに隠す未桜。


「何だてめぇーは。関係ねぇやつは引っ込んでろ」


今度は未桜の胸ぐらを掴む男。


「確かに私は関係ないです。でも、少年が殴られようとしているのに見過ごすことはできません」


「そりゃあ、大層ご立派なことで」


フッと馬鹿にしたように笑う男。


「もう満足しただろどきな」


未桜の勇気ある行動を自分の正義感を満たすだけの自分勝手なものだと馬鹿にする。


掴んでいた胸ぐらを離して肩を思いっきり押す。押されたことでこけそうになるが、なんとか耐える。


そして、もう一度少年を殴ろうとする。


「あなたは一体何をしようとしているのですか。少年を殴ろうとするなんて恥ずかしくないのですか」


男の腕を両手で必死に掴み止めようとする。


その言葉に気分を害したのか顔が真っ赤になりすごい顔で未桜を睨む男。


「はっ、あんたは何も知らないからそんなことが言える。そいつが何をしたと思う」


「何をしたと言うですか」


だからと言って殴っていい理由にはならないと男を睨む未桜。


「そのくそ餓鬼に聞いてみろよ」


おい、言えよと少年の足を蹴る。


その拍子でこけた少年に駆け寄る未桜。「大丈夫」と声をかける。手の平から血が出ているのに頷く少年。手拭いを取り出して少年の手の平に巻く。


「何をするんですか。いい加減にしてください」


未桜が男を怒鳴ってもなんとも思っていないのか、全く反省した様子はない。


その時少年が小さな声で何か言った。よく聞こえずどうしたのかと聞く。


「僕は何もしていない」


そう小さく呟く。


「おい、今なんて言った。はっきり言え」


馬鹿にしたように言う男。


「僕は何もしていない」


大きな声で叫ぶ少年。


「嘘つくな」


男が大声で怒鳴る。


その怒鳴り声が怖かったのか未桜の腕にしがみつく少年。


「本当に僕じゃない。僕は何もしてない。お姉さん、本当だよ。お願い、信じて」


少年の目から涙が流れる。


「いい加減にしやがれ。いつまでしらばっくれる。お前以外誰がやる」


そう言ってまた少年に掴みかかろうとする男。


「いい加減にするのはあなたの方でしょう」


少年を守るように抱き締め男を睨みつける未桜。


「はぁー、本当勘弁してくれよ。めんどくせーな。おいねーちゃん、ささっとそのくそ餓鬼をこっちによこしな」


そしたらお前だけは見逃してやると。面倒くさそうに言う男。


「嫌です。この少年は何もしていないと言っています。あなたには絶対に渡しません」


きっぱりと断る未桜。


そんな未桜の態度がむかついたのか、さらに詰め寄り見下ろす男。拳を強く握りしめていて今にも殴り出しそうな雰囲気をだしている。


周りで見ていた人達はそんな様子に「ねぇ、あれ大丈夫なの」「誰か止めた方がいいんじゃ」と心配そうに見ているが見ているだけで誰も何もしなかった。


男は体格がいいため下手をしたら自分達が怪我をする。きっと誰かが助けるだろうと人任せにした。


「おい、ねーちゃん。あんたは俺よりこいつを信じると」


「ええ、そうです。私はこの少年を信じます」


未桜の言葉を聞いた少年は顔上げて未桜を見つめる。少年の頭を撫で安心するように微笑む。


「フッフッフッ…。アッハハハ」


いきなり狂ったように笑う男。


「俺よりそのくそ餓鬼を信じると、ふざけてるのかお前は。いいさ、そいつが何をしたか教えてやる。こいつはな、俺の店から簪を盗んだんだ。それも、ただの簪じゃねー。名家の女達が欲しがるくらいの上等な簪だ」


男の言葉を聞いた周りの人達は「それなら仕方ない」「殴られて当然」「これだから金のない奴等は」と男を擁護しはじめる。それを聞いた男は勝ち誇ったような顔をする。


「この少年が盗んだ証拠はあるんですか」


「もちろんあるに決まっているだろう」


自信満々に答え盗まれたときの状況を話しだす。


男の主張はこうだ。

 

いつものように店を開けて接客し着物や髪飾り、化粧道具を売っていた。


つい最近仕入れた上等な簪を誰に売るか悩んでいたときに事件は起きた。簪を入れた箱を開けたまま奥に入った少しの間に簪が紛失した。


急いで箱の周りや店の中を探し回ったが見つからなかった。たまたま店の外を見ると少年がこっちを見ていた。


その少年と目が合うと焦ったように逃げ出した。それにその時の少年の目を見て確信した。


こいつが簪を盗んだ犯人だと。


未桜は男の話を聞いてこれはただの言いがかりだと思った。


何故これで少年が犯人だと確信するのか未桜には理解できなかった。


「これでわかっただろう。さっさとそいつをよこせ」


少年の腕を掴み自分の方に連れていこうとする。

 

周りの人達も「これだから卑しい子は嫌だ」「常識はないのか」「人としてどうかしている」と少年を責め立てる。


何故か男の話しを聞いて少年を犯人だと決めつけた。


「さっさと立て、このくそ餓鬼」


少年の腕を掴み連れて行こうとする男。少年は嫌だ離せと必死に抵抗する。


「やめてください。あなたの言い分はただの言いがかりです」


「おい、今何って言った。もう一変言ってみろ」


未桜の言葉が余程気に食わなかったのか顔を近づけて圧をかけてくる。


「何度でも言いましょう。あなたの言い分はただの言いがかりです。あなたはこの少年が盗んだところを見ていたわけでないのでしょう。簪が紛失したときに外にいた少年を見つけ犯人にしただけです。証拠も無いのに少年を犯人と決めつけるなんて恥ずかしく無いのですか」


男の目をしっかり見つめ返し怒りをあらわにする未桜。少年の腕から男の手を払い落として背中に隠す。


「このくそ女」


そう言って未桜に殴りかかろうとする男。


男は未桜の言葉も行動も、そして自分でなく少年を信じたこともも許せなかった。


何より大勢の前で非難されたことに腹が立って仕方なかった。

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