第13話 記憶


「……ッはぁあ!」


目覚めた私を彼らは眺める。


「ようやく、思い出しやがったか」


最初に口を開いたのはユピテルだった。

その目には殺意がこもっていて、

足元には翡翠の紋様。


下手に動けば殺されるだろう。

彼の隣には海神叢雲を奪われたベルク。

まるで人質のように、彼は立っていた。


「……ッ」


「いや、聞くまでもなかったか」


答える間もなく、彼の足元から巨大なツルが生えてきた。


「その目を見れば、分かるとも」


ツルが回転をしながら、異常な速さで迫る。

私は避けることを選ばず、迫り来る武器を正面から受け止めた。


「!」


ツルが私の体に触れようとした刹那、黒いイバラがツルを絡みとった。

イバラから棘が出てツルを刺した。


「神。ユピテルよ。人の記憶を無理やり呼び覚まさせるとか、神としてどうなの?」


「!」


「……」


彼らは沈黙と共に、私の動きを見る。

片方は、驚いて。

片方は、笑って。

イバラを制御した私を見てユピテルは舌打ちをし、口を開いた。


「鐘は目の前だぜ」


挑発のように、鐘に背を向けて、新たなツルを出現させる。


「どいて、ユピテル。私は鐘を鳴らす。ここから出る。邪魔しないで」


違和感に気づいたユピテルが笑って、思いっきり地面を踏み込む。

怒りを込めて、音速を越え、私の方へと突っ込んでくる。


ばん!とイバラが迫り来るツルを弾く。

本体同士がぶつかり合う。

拳をかざし、蹴りを入れる。


「なるほどな。貴様、!」


死が交差する中で、彼は声を上げた。


「はあ!」


不意打ち気味にベルクが海神叢雲で敵を斬りつける。

完全なる死角からの一撃。

ユピテルには避けようがなく、背中に重い一撃が下された。


「神を、舐めるなぁ!」


振り向き様に、拳をベルクの腹に減り込ませる。

そのままの勢いで、私のいた方向へ、ベルクを弾丸のように投げつけてきた。


「大丈夫か?」


ベルクの下敷きになるように受け身を取った。

血を口から吐いて、腹を貫かれた彼が立ち上がる。


「うぐっ」


彼は立ち上がるのがやっとで、とても戦えそうにない。


「これ……使え」


彼はいつのまにか持っていた海神叢雲を私に渡した。


「行け」


「ありがとう」


背中から血がドバドバと出ているユピテル。

それでも尚、彼は足を止めない。

少し、ふらっとした足取りで、一歩ずつ、こちらに向かっている。


私は海神叢雲を構え、息を整える。


「鐘の正体を、お前の罪を、思い出せ!」


彼が精一杯叫んだ。


「!」


私の頭の中で響いて、何かが呼び覚まされた。

知らない記憶が、過去が。

私の体になだれ込んだ。

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