第14話 記憶の鐘


──俺は、止めたからな。


悪いな、だけどあいつを守るには、これしか無かったんだ。


──妹を思うのは良い事だと思うが、それは、彼女を苦しめることにも繋がるぞ。


……それはまぁ、謝るしかないな。


──ローザ。俺は、お前を尊敬しよう。


豊穣神ユピテルに褒められるとは。

なんだ?明日は槍でも降るのか?


──好きに思え。俺は、思ったことを正直に言っただけだ。


ああ、最後に一つだけ、頼みがある。


──言ってみろ。


俺の妹を、頼んだぞ。


──元から、そのつもりだ。



ユピテルはただ、憎悪を持って、私を見る。


「……あ」


無意識のうちに、私の口からこぼれ落ちた言葉。

海神叢雲を地面に落としてしまった。

身体に、力が入らない。

動こうと、戦おうとした身体が、立ちすくんで、震えている。


未知なる恐怖からでも、

ユピテルへの絶望感でもない。


分かっていたはずだった。


「ようやく、全部思い出しやがったか」


傷一つないユピテルがゆっくりと近づく。

緑色のツタが、彼の足元から伸びてきて、私の四肢を縛り付ける。

まともに抵抗すらできない。


!」


怒りを込めて、彼の叫びが武器になる。

答えはない。もとより、答える気力すら、今の私には残っていなかった。


「……ッ」


締め付けが、より強くなる。


「お前!あいつに何をした!」


瓦礫の中から血まみれのベルクが叫んだ。


「……腹を貫かれておいて、もう立ち上がれるほどに回復しただと?」


彼の意識が完全にベルクの方へと向いた。

翡翠の紋様が彼の足元でさらに巨大化し、新たなツルが彼の足元で時を待つ。


「縛れ」


迫り来るツルをすんでのところで躱し、赤く染まっていないところの方が少ない足で、突っ走る。


「……あ」


『!』


ふと、2人の足が止まった。

鐘が鳴ったのだ。

けど、それはいつもの音色とは違った。

まるで、なだめるように。


かーん、かーん、と。


「俺は、別にお前を殺したいわけではない。お前がそこで大人しくしているのなら、俺は手を出さない」


その目は、敵意を持っていなかった。

それどころか、少し、悲しそうだった。


「……リベラを、どうするつもりだ」


「──手荒には、扱わん」


答えたようで、答えになっていない。

その言葉を信じて、ベルクは動かず、ただ時間が過ぎるのを待つ。


「自身の罪から、目を背けるな」


それだけを、私に告げた。

縛られた身体で、記憶と向き合う。

私は、全てを思い出した。

思い出させられた。

それが、私の脳裏をよぎり、離れない。


双神の片割れ、メティス。

それが、私の名前。

双神は名前の通り、双子の神。

妹である私、メティス。

そして、兄である男、ローザ。

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