第11話 鐘


鐘を鳴らして、時を刻む。

一日経って星がなる。

二日経って命が光る。


「これが、鐘」


遠くに見える白亜の鐘。

あまりにも大き過ぎた。

鐘を囲むように、家が建っている。

けど、鐘に比べたらあまりにも小さすぎる。


「……ッ!」


家は、白いイバラに飲み込まれている。

赤い花がそこら中で咲き誇る。


人の気配は無い。

残された静寂だけが、時を刻む。


「……もうすぐだ、行こう」


彼はボーとしていた私に、声をかけて先を急いだ。


──なれば、星を仰げ。


「……ッ」


頭痛としてそれは言葉となる。


──我が怒りを、我が天命を。


声。


私たちは鐘の街、[アスクル]を進む。

やっぱり、命は居ない。

唯一、花だけが、私たちを歓迎している。


「!」


ばん!と、鐘の近くで身体が弾かれた。

何かにぶつかったようだ。

辺りを見渡すと、鐘の周りを透明な膜が張っていた。

身体を弾いて、攻撃を弾いて。

侵入者を認めない。

壊そうと、彼は魔力の流れを一点に集中させる。


荒れろリアクト


ばん!と、大きな音を立て、魔力の塊は周りへと散らばった。


「やっぱ、無駄か」


ならば、物理だと言わんように、海神叢雲を振り上げる。


「無駄だ」


海神叢雲を振り上げた彼に対する静止の声。


どこからともなく、それは現れた。

空に浮いていた。

正確に言えば、巨大な枝の上に立っていた。

彼が地面に優しく着地する。

すると、地面からツタのようなものが生えてきた。

イバラでも、白い花でも無かった。

その性質を、その能力を。

無意識の記憶は知っていた。

一眼見ただけでわかったとも。


豊穣神ユピテルッ!!」


私はその名を叫んだ。


「……」


男は答えず、ただ微笑を。

その瞳には、明らかな敵意がみなぎっている。

こん、こんと、彼はゆっくりと近づいてくる。


「──メティス。改めて、言ってやる。

何度だって、言ってやる。

俺は、お前が嫌いだ」


刹那、彼の足元から生まれた植物が、目にも止まらぬ速さで私の身体を狙う。


「!」


間一髪のところで、植物の枝を避ける。


「なっ!」


迫り来る2発目。

身体を逸らしたことにより、思うように動けないでいた。

死を覚悟した瞬間、バン!とベルクが海神叢雲で枝の軌道を捻じ曲げた。


「大丈夫か!」


背中合わせになって次の攻撃を待つ。


ユピテルの足元が翡翠色に光る。

迫り来る3発目。


今度は一直線で。


「はぁ!」


彼は迫り来る枝を弾いた。

彼は攻撃の軌道をずらした瞬間、私の方を見た。


「なっ!」


地面を貫いた鋭い枝に、私の胸は貫かれていた。


「──いっぺん、思い出すんだな。

逃げることは、もう、許さない」


私の意識がなくなった瞬間、彼は攻撃の手を止めた。


「さて、一つ試そうか、お前はあいつにとって、この世界にとって、何者になるのか」


ニヤリと笑って、ベルクに近づく。

その目に、敵意は無かった。


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