第10話 海神叢雲


かつて、争いが起きた。

長く、永く続いた。

果てに、勝利を掴んだ。


多くの犠牲を払って、

多くの友を失って、

嬉しくもあったし、悲しくもあった。


これから、復旧が始まる。

幸せな日々が始まる。


そう、思っていた。






海神叢雲わたつみのむらくも……?」


おうむ返しで、私は彼の言葉をつぶやく。

枝の中から差し込む光を、銀色の光として反射している。

日本刀と、呼ばれるものだった。

西洋とは違い、細く、片刄だ。

ライトからベルクが剣を受け取った。


「……ありがとう、爺さん。それと、別件で頼みがあるんだ」


「なんだ?」


家の方向を向いていたライトにベルクが口を開いた。


「神について知りたい」


「……!」


腕を組んでライトが考える。

唸り声をあげて、くるくると回っている。


「……」


無言でこちらを見つめ、家の中へと入っていった。

ライトについていくように、私たちも歩き出した。


足場の無い部屋に3人が座る。

全員、距離を置いて。


「最初に言っておくが、儂も神についてはそこまで詳しくは無い。

神は、大きく分けて二種類存在する。


一つは土地から生まれた神。

一つは人が昇華した神。


前者に関しては、「空神テンペスト」や「火神ベクター」が当てはまる。

この世界を統治するために、星が生み出したものたちだ。


後者は、「邪神アベル」や「獣神イブリーヒム」が当てはまる。

こっちに関しては、人が勝手に神と呼んでいるものたちだ。

災神バベル」は、例外みたいなもんだが。

まあ、いいだろう」


それまで話して彼は、手元にあった小さなコップを口に運ぶ。

頭痛がする。


「……鐘については、あれはかなり昔からある。

少なくとも4、500年前から存在しているのは儂が証明できる。

何のために建設されたのか。

何故、鐘に選ばれたものが死ぬのか。

引きこもりにはよく分からない」


言い終わって、ベルクの方を向くライト。


──■■■■よ。我が■よ。


初めて聞く声。

彼らの声では無かった。

けど、どこか聞き馴染みがあった。


「……他には?」


「いや、ありがとう」


ライトは立ち上がり、溶鉱炉の火をつける。

熱気が部屋全体を支配する。

かーん、かーん、と金属がぶつかり合う音。

残された私たちに静寂がつきまとう。


「さ、行くか」


海神叢雲を握ったベルクは家の外へと歩き出した。

無言で私もついて行く。


「──鐘までは盛って後2日歩けば着くだろう。お前は、鐘を鳴らすんだろ?」


それは、質問と言うより、確認だった。

かーん、かーん、と鐘がなる。

どこかで、誰かが死んだ。

深呼吸をして、決意を固める。


「うん」


私たちは鐘に向かって歩き出した。

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