第9話 荒れ狂う星
「別に、こうしたかったわけじゃない」
ほかに、やり方があったのなら、
「最善を、選びたかった」
森を進む中で、頭に浮かぶ誰かの言葉。
聞いたことあるようで、初めて聞く声。
私の中で荒れ狂うイバラが声を荒げる。
身体は星を求め、森を出る。
「!」
森の外には犬をもした獣が3匹。
唾液が飛び散っていて、目は赤く染まっていた。
「……
臆することなく、彼は右手をかざす。
辺りの風が一点に集中する。
バン!と巨大な音をたて、風の弾丸を撃った。
「────!!」
獣の顔に命中した。
かすり傷が、致命傷に至るまで切り裂かれる。
10秒経って、原型が残っていなかった。
すかさず次弾の装填を始めるベルク。
「!」
バン!
今度は連続で二発。
ひらりと避け間合いを詰める獣。
凶悪な爪が彼に襲いかかる。
彼は動かず、周りの風が空気が淀めく。
瞬間、獣の足が粉々に砕け散っていた。
ありえない方向に関節がねじ曲がる。
声を出すよりも先に、本能が行動を起こした。
3本足でバックステップを。
また、間合いを離す。
呆然としていた私に、死角から獣が迫る。
間一髪で体をそらす。
鋭利な爪は服を裂いて、肩の皮膚を赤く染める。
落下と同時に、獣は地面を蹴り上げた。
私の反応速度を大きく超えた死が、胸元を切り裂こうとしていた。
「!」
黒いイバラが足に絡みついていた。
鋭利な爪を足先ごと棘が貫く。
膠着状態が続く。
獣は間合いを取る。
逃げようとはしない。
眉間にしわを寄せ、敵が動くのを待つ。
黒いイバラが私の身体にまとわりつく。
荒れ狂った大気が彼の周りを漂う。
時間だけが流れる。
かーん、と鐘が鳴った。
私と間合いを取っていた獣の頭が爆発する。
『!』
彼と獣は同時に動く。
無駄なく、一撃で。
空気が滲み、武器となる。
拳に纏い、狙うは心臓。
大地を穿ち、急速に飛躍する獣。
爪が光り、巨大化した。
勝負は一瞬。
唸り、体を捻り、迫り来る拳を躱す。
「!」
外せば、後は巨大な爪を当てるだけ。
躱す事は許されない。
獣は思いっきり足を振った。
頬を裂いて、地面に落下した。
傷は深く、致命傷にもなり得る。
臆する事なく、彼はもう片方の腕を撃ち込んだ。
「
刹那、獣は死亡した。
全ての関節がありえない方向に曲がり、骨という骨が皮膚を貫いた。
死体を横に、彼は裂かれた頬に優しく触れる。
「……」
広がっていた傷口がバラバラではあるが、紡がれていった。
「……戻るか」
それだけを呟いて、彼は森の方へ歩いて行った。
無言で、私は彼の跡をつける。
小さな家の前で、ライトが立っていた。
手には巨大な剣。
「……できたぞ。名を冠するのなら『海神叢雲』だ」
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