第4話 記憶


「なに……これ」


意味不明なところに私はいる。

その中でも、一際異彩を放つ建物。


看板に「美術館」と書いてあった。


警戒しながら、私は中に入った。



『ああ、繰り返そう。繰り返そう。大義を持った。決意を抱いた。

でも、結局は自分が1番大事だった。

毎回毎回、最終的には逃げた。

いや、スタート地点にすら立たずに』


どこからか、声が聞こえる。

けれど、これは、


「私の……声?」


最も聞いたことのある声がスピーカー越しに発せられる。

悪趣味だ。

中にはとてもリアルな絵が、写真が飾ってある。


私の目は一枚の写真に釘付けになった。

それは、見たことのない少年と、私が並んでいる写真。

もちろん、私に兄弟はいない。

いたとしても、鐘で死んでいる。


ガザガザとノイズが乗った声がスピーカーから発せられる。


がそんなのでいいのか。

民の事を考えなければならないのでは。


「私は、あなたたちが幸せならそれでいい」


そう願ったのではないか。

ああいや、そんな戯言、口に出しただけで一度も思ったことなかったか』


ゲラゲラと笑いながらそれは言葉を続ける。


『さあさあ、お客様。奥へお進みください。はメインディッシュではございません』


声に促され、私は奥へと進んでいった。

奥へと進む廊下の左右には、クレヨンで描かれた女の子の絵。


泣いていたり、笑っていたり、血を流していたり、首が無くなっていたり。


「この先、シアター」と書かれた看板。

赤いカーペットで彩られた道を私は小走りになって急いだ。


奥には赤く装飾された豪華な扉。

それと、隣に立っている人が。


私に似ている。けれど、何処か違う。

中性的な顔に、短い髪。

少し大きいスーツを着込んだ、彼?は私に気づいたのか深々とお辞儀をした。


一眼見ただけでわかった。それが、スピーカーの声の持ち主だって。


「ようこそ。いえ、今更堅苦しいのはやめましょう」


少し距離を取って、彼を見る。


「ええ、そんなに警戒しなくとも大丈夫ですよ。薄々気づいているとは思いますが、私がナレーターです」


「ナレーター?」


「はい。ナレーターと言うよりかは、ここの主と言いますか。

ともかく、私に貴方をどうこう出来る力はございません。

だから、睨みつけるのをやめていただけると幸いなのですが」



彼?は扉を開けた。




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