第1話 イバラ


4月3日、私は故郷の「スウェード」を出て、北の方角へ進み出した。


整備されていない道を歩き続ける。


隣には馬車に乗った金髪の男。

サングラスをかけ、同じ道を進んでいた。


ここでお腹が減るなんてことはない。

昼も夜も、景色が変わらないせいで、どれぐらい進んだのか、今、何時なのかがわからない。

ただ、鐘だけが時間を知らせてくれる。


「そこの嬢ちゃん、乗ってくかい?」


ナンパでもするように男は私に話しかけてきた。

体力的にはまだ余裕があったが、少し休みたかった。

少し止まって悩んでいると、


かーん、かーん。


また、鐘がなった。


「みぎゃあァァァァァァ!!!!」


隣で花が生まれた。

一人の命を使って。


男の死体は馬車からイバラによって引き摺り下ろされた。

小さな爆発に驚いた馬が暴れる。

イバラは馬の全身に巻きつき、棘を出して串刺しにした。

地面についた瞬間、イバラから棘が出て、男の全身を刺した。

男の体がどんどんとやつれていく。


「……」


気づいた時には花が赤く染まっていた。


私の体は無意識のうちに、現場から離れていた。

走って、走って、とにかく遠くへ。


途中、まばらに見える赤い花に、吐き気を覚えてしまった。

また、目を背けてしまった。



「はぁ、はぁ、はぁ」


どれぐらい走ったんだろう。

息が荒くなっている。


地面に座り込んで、丸くなる。

殻にこもって自分の気持ちを抑える。



「お前、大丈夫か?」


それは、少年の声だった。

私と同じぐらいの背丈に、ガッチリとした肉付き。


私が顔を上げると、彼は微笑んで手を差し伸べる。


私の手が、彼に触れる。


「いッッ!!」


「!」


私の手から小さなイバラが出ていた。


「なに……これ」

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