二つの逸話


ここには、昔から伝わるある逸話が存在する。

それも二つ。

それは、鐘を鳴らした者がこの世界から出られると。

けれど、鐘を鳴らすということは、誰かが死ぬということでもある。


毎日の二度の鐘とは違う。


けれど、鐘を鳴らした者はいない。

鐘を鳴らそうとした者は皆、鐘に選ばれた。


ここではまばらに広がる花だが、噂では、鐘の周りは足場が全て花で埋まっているらしい。




正直なところ、私はもう、うんざりしていた。

私と友達になってくれた人、皆んな鐘に選ばれてしまった。

みんな死んでしまった。


私には誰も近づかない。


「死神」に近づいて、死にたい人なんて居ないのだから。


寄り添ってくれた。私に心開いてくれた。

私も、心を開いた。


優しく、私を包み込んでくれる。


あの日々を思い出しながら、私はこの世界を歩く。


────鐘を鳴らす


それを、胸に刻んで。


誰もやったことのない偉業。

真実かもわからぬ盲信。


でも、試すだけの価値はある。



もう一つの逸話。

それは、この世界には「神」が存在すること。


勿論、私は見たことがない。

けれど、神様と言われるのだからこの世界から人一人出すことぐらい容易だろう。



二つの逸話を信じて、多数の犠牲を払って、鐘にたどり着く。


もう、失うモノはない。

そう決意して、私は故郷を旅だった。


両親は、もう居ない。

私が幼い頃に、鐘に選ばれた。


小さなバッグを背負って、歩き出した。


この世界に、乗り物は無い。

そもそも、「機械」すら、まともに存在しない。


空はいつも、星が出ている。

雲に隠れていても、太陽が出ていても。

星は、それに負けないように光輝く。


私は星を目印に。

中央で光輝く、一番星。

それを目指して。



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