30 天地

 いつかと同じ、月が美しい夜だった。僕は深夜まで兄と一緒に映画を観ていた。二十年以上前に流行った恋愛もので、今観ても色あせぬ魅力があった。

 その興奮で、なかなか寝付けなかったので、僕は兄をリュックサックに入れて、またあの公園に行くことにした。


「兄ちゃん、出ておいでよ。この時間なら大丈夫だよ」


 僕は兄を取り出してベンチに置いた。兄はひゅう、と口笛を吹いた。それから、ふと思い付いた僕は、地面に仰向けに寝転がり、兄をお腹の上に乗せた。


「兄ちゃん、夜空が綺麗だよ」

「そうだな。空気が澄んでて、最高の夜だ」


 背中に冷たい地面の感触。それを感じるということは、僕が生きているということの証明のようだった。

 長い間、そうしていた。まるでこの世界に僕と兄しか存在しないような、そんな気分にさせられた。


「生首を飼っているのなんて、世界に僕だけだろうね。何だかそれも寂しいな」

「そうだ、奏太。スマホ持ってるか?」

「あっ……忘れてきた」

「じゃあ帰ってからでいいや。いいこと教えてやる」

「いいこと?」

「うん。ハッシュタグ」

「何それ?」

「まあ帰ってから、ゆっくりな。寂しくなくなるぞ、きっと」


 兄の言っていることの意味がわからなかったが、帰ってからのお楽しみにしようと思った。

 流れ星が見えた。僕は、兄とずっと一緒に居られるようにとお願いした。


「ねえ、兄ちゃん」

「なんだ、奏太」

「愛してるよ。これから先も愛し続けるよ。僕たちは世界でたった二人っきりの兄弟だから」

「兄ちゃんも愛してるよ、奏太。お前の兄ちゃんで本当に良かった。自慢の弟だよ。兄ちゃんを殺したことは、赦してやる」


 僕は兄を殺した。永遠にあがなえない罪を背負ったつもりだった。でも、本人にそう言われたのだから、贖罪の必要はないだろう。

 これからも僕は生きていく。兄と共に。一生離さない。僕の全ては、もう兄だけのためにあるのだ。




奏太くんイメージイラストと簡単な振り返り

(包丁&返り血注意です。)

https://kakuyomu.jp/users/saki-souyama/news/16817330667699059047


※12月24日に特別編を投稿し、完結となります。

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