28 かはたれどき

 妙な時間に目が覚めた。僕は身じろぎをして、兄の位置を確かめた。脇腹の辺りにいた。スマホで確かめると、夜の三時だった。

 冷蔵庫からサイダーを取り出して飲み、ベッドに腰かけた。兄がゆっくりと目を開いた。


「なんだ……奏太……もう朝か?」

「全然。目が冴えちゃって。どうしようかな」

「兄ちゃんと散歩でも行くか? 久しぶりに外の空気吸いたい」


 僕はリュックサックに兄を入れ、出発した。辺りは静まり返っていて、冷えた空気が肌をさした。

 自販機でホットコーヒーを買い、いつか兄を置き去りにした公園まできた。僕は兄を取り出してベンチに置き、その隣に座った。兄は言った。


「彼は誰時ってな。通りがかった人もまさか生首と一緒にコーヒー飲んでるとは思わないさ」

「だね。兄ちゃん、一口飲む?」

「うん、くれ」


 いくつもの話をした。幼い頃の思い出話から、僕たちの将来のことまで。そのうちに、段々と空は白みはじめた。

 僕はタバコに火をつけ、空いた缶を灰皿代わりにした。


「一口吸わせてくれよ」

「また?」


 今度は兄はむせなかった。器用にぷかぷかと煙を出した。それは空気にとけ、あっという間に消えていった。


「兄ちゃん、こういう散歩もいいね。また変な時間に目が覚めたらここに来ようか」

「ああ。そうしよう」


 新聞配達だろう。バイクの音が聞こえてきた。そろそろまずいか、と思い、僕は兄をしまった。

 朝日が街を照らす中、僕は歩いた。日光はうつにいいと聞く。セロトニンだったか、そういうのが分泌されるらしい。

 兄との話の中で、僕は仕事についても話した。熾烈な就活を経て、ようやく就いた職場だ。このまま辞めてしまうのはやはり惜しいと思った。

 帰宅して、ベッドに寝転がり、兄に頬ずりをした。冷たい頬だった。


「奏太、あっためて」

「うん」


 僕は兄ごと毛布にくるまって、撫で回した。二人の体温が混じり合い、欲望に突き動かされた。


「和登……飲む?」

「おう、くれよ」


 僕は下着をおろした。兄はちゅぱちゅぱと吸い付いてきて、僕は大きな声をあげた。

 終わると途端に眠気が襲ってきた。僕は丸くなって兄を抱き締めた。


「好き。大好き。ずっと僕のそばにいて」

「ああ。兄ちゃんは、ずっと奏太と一緒だからな」


 意識が遠のいてきた。僕は腕に力を込めた。心地よい疲労感と共に、僕は深い眠りに落ちた。

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