26 故郷

 電車を乗り継ぎ、僕と兄が生まれ育った町にきた。昔は栄えていた商店街があり、広い公園があり、図書館もあった。

 僕たちはまず、両親と住んでいたマンションに行った。もちろん中には入れない。外観を見るだけでも懐かしさが込み上げてきて嬉しかった。

 周囲に誰も居ないのを確認して、僕は兄を取り出した。


「あれ? 外壁塗装したか?」

「そうみたいだね。綺麗になった」


 さっと兄をしまい、次は商店街にあるたい焼き屋へ行った。兄と小遣いを握りしめて足しげく通ったものだ。幸いまだ店は存在していた。

 一つだけ買って、公園まで行き、兄にこっそりあんこを舐めさせながら、たい焼きを平らげた。甘ったるくて濃厚。それがいい。


「兄ちゃん、美味しい?」

「ああ。やっぱりここのたい焼きが一番だな」


 公園には、総合遊具があった。滑り台に登り棒やブランコがくっついているやつだ。母親に連れてこられた幼児がいて、よちよちと階段を上っていた。

 僕と兄もよくここで遊んだ。幼い頃は、二つの年の差というのは大きくて、追いかけっこをするとすぐに兄に捕まって悔しかったものだ。


「奏太、覚えてるか。お前、ブランコから落ちて頭打って失神したろ」

「そんなことあったっけ?」

「あったんだよ。小学生のときな。兄ちゃんこわくてよ。奏太が二度と目を覚まさなかったらどうしようって。念のために病院まで行ったんだぞ? 忘れたか?」

「うーん、思い出せないや」


 お次は通っていた小学校の前まで行ってみた。通学路は僕の記憶とは違い、しっかりと舗装されていた。あぜ道のようなところだったのに。

 校門は固く閉ざされていて、隙間から池が見えた。人通りが無かったので、僕はまた兄を取り出した。


「おっ、あの池。メダカたくさんいたよな?」

「今はどうなんだろうね」

「入ってみたいなぁ」

「池の中に? ここから放り投げようか?」

「そうじゃなくて」


 最後は家族で行っていた中華料理屋で麻婆茄子を食べた。この店もよくぞ残っていてくれたものだ。うちは外食が珍しく、何かの祝いとかそういう時でないと来なかった。


「奏太、美味しかったか」

「うん。全然味変わってなかった」

「それなら良かった。今日は楽しかったな」

「そうだね。帰る家はないけど、故郷っていいもんだよ。また来ようね」


 夕焼けを背に、僕は駅まで歩いた。

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