25 灯り
クリスマスケーキを予約するため、兄と一緒に街に出た。兄はクリームだけ舐められればいいと言うから一番小さいやつだ。生チョコレートにした。
それから何となく寄った雑貨屋に、アロマキャンドルが売っていた。大学生で一人暮らしを始めたときにハマったことがある。懐かしくなってラベンダーの物を買った。
帰宅して僕は、それを兄に見せた。
「へえ、お洒落じゃん」
「試しにつけてみる?」
僕はカーテンを閉め、ローテーブルの上に置いたアロマキャンドルにライターで火をつけた。ぽおっと火が灯り、ゆらゆらと揺れた。
「へえ……いいな。心が安らぐ」
「兄ちゃん心臓ないけどね」
「心ってもんは、なんつーか、もっと別の場所にあるんだよ」
僕はベッドの上にあぐらをかいて座り、足の中に兄を入れて、しばらく火を見つめていた。
兄を殺してもうすぐで一ヶ月。ニュースはたまに見ているが、切断された遺体が見つかったなんてことにはまだなっていなかった。
まさか生首の兄を飼うことになろうとは、兄の殺害計画を立てていた頃の僕は思いもしなかったが、この生活も楽しくていい。
「奏太、もっとたくさん買ってこいよ。クリスマスのときには派手にやろう」
「わかった。香りはこれでいい?」
「うん。気に入った」
ラベンダーには気分を落ち着かせる効果がある。僕は兄の頭を撫で、そっと目を閉じた。
「兄ちゃん、愛してる。こんな穏やかな日々がずっと続けばいいのにね」
「そのことなんだがな。兄ちゃんは生首だから、奏太を養ってやれない。やっぱり復職の準備をした方がいいと思うんだ」
「うん……僕も、そろそろちゃんと考えなきゃって思ってた」
僕は目を開けた。火はまだ燃え続けていた。息を吹けばすぐ消えてしまう頼りない光。それが今の僕だ。
「そうだ。奏太、実家見に行くか。あそこのたい焼きでも食ってこいよ」
「しばらく地元には帰ってないもんね。それもいいね。早速明日そうしようか」
僕はベッドに寝そべり、兄の顔を自分の顔に近づけた。そして、額や頬にキスをした。
「和登。また、見てもらってもいい?」
「いいよ」
ラベンダーの香りが漂う中、僕の嬌声が部屋に響いた。
「奏太、可愛い。愛してる」
愛する人に見守られながら、僕は達した。
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