24 洗濯

 近ごろ洗濯物をためてしまっていた。今朝は具合もいいので、一気にやってしまおうと重い腰をあげた。

 うちの洗濯機はドラム式だ。乾燥もできる。しかし、シワになるようなものは分けておいて、部屋干ししている。

 一度洗濯し、干したい物だけ取り出して乾燥ボタンを押し、せっせとハンガーにパーカーをかけていると、兄が言った。


「なあ、兄ちゃんを洗面所に連れてってくれよ」

「なんで?」

「洗濯物が回っているのを見たいんだ」

「はぁ……そう」


 乾燥は三時間くらいかかる。いつまで見ているつもりかわからないが、僕は兄を洗面所に置き、干す続きをした。

 終わってから、ちらりと洗面所を覗くと、兄はニヤニヤと洗濯機を見ているだけだったので、僕はとりあえずタバコを吸った。


「奏太、やっぱり面白いなぁ」

「そう? 映画観てる方が楽しいんじゃない?」

「いや、な。こうして動くことができなくなると、日常のほんのささいなことがアミューズメントになるんだよ。奏太も生首になってみればよくわかると思う」

「僕はごめんだね」


 結局、乾燥が終わるまで、兄はそこにいた。出来上がったばかりの温かいバスタオルを取り出し、兄を包むと、彼はにっこりと笑った。


「ふわふわだー」

「いいよね」


 それぞれの場所にたたんで置き、空っぽになった洗濯機を見ていると、いたずら心がむくむくと顔を出した。僕は兄を掴んで洗濯機の中に入れ、閉めた。


「奏太! やめろってば!」

「このまま洗剤入れて回したら、兄ちゃん綺麗になるかな?」

「ダメだって! 出して! 出してくれよ!」


 可哀想なので、さすがにすぐにやめてあげた。兄がむっすりとしていたので、食事を与えて機嫌を取ろうとしたら、噛まれた。


「いってぇ!」

「奏太のバカ。マジでこわかったんだぞ?」

「ごめんって」

「もうしない?」

「絶対しない」


 それでも、もし兄とケンカしたら、今後はこの手が使えるななんて僕は考えた。本当に許せないことが起きたら、実際回してみよう。どうなるのか気になる。

 食事の後は、兄は上機嫌で、ベッドで一緒にまどろんだ。


「奏太」

「なぁに?」

「愛してる」

「ふふっ」


 殺してからの方が、兄も丸くなったなぁと思いながら、僕は口づけを落とした。

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