21 飾り
風呂場の排水溝のネットが切れた。僕は百円均一の店に行くため、兄をリュックサックに詰めて出発した。
街中は徐々にクリスマスになっていた。ケーキ屋の前を通ると、早期予約割引の看板が立っていた。
百円均一の店も賑わっていて、季節商品のコーナーは赤や緑で埋め尽くされていた。僕はトナカイのカチューシャを手に取った。兄に似合いそうだ。
お目当ての物もきちんと買い、僕は帰宅した。
「兄ちゃん、これつけて」
「ええ……」
「まあ拒否することはできないんだけどね」
可愛らしい角が生えた兄。思わず写真を撮った。
「やめろよ奏太。それ他人に見られたらどうするんだ」
「まあ見られるようなことなんてないし」
「兄ちゃんは奏太のスマホ勝手に見てたけどな」
「今知ったし。何それ最悪」
僕は兄にカチューシャをかけさせたままでいることにした。自分で取ることもできないなんて、いい気味だ。
「おーい奏太。食い込んで痛いんだけど」
「知らない。もう少しつけててよね」
兄の頬をつつき、僕は笑った。もっと色々買ってもよかったかもしれない。クリスマス本番には、サンタの帽子でもかぶせようか。生首をアレンジできるのは楽しい。
僕はタバコに火をつけた。兄を置き去りにしたあの日から、喫煙は再開してしまっていた。
「なあ奏太、兄ちゃんにも一口吸わせろよ」
「吸えたっけ?」
「試しにな」
吸いかけのタバコを兄の口に持っていき、くわえさせた。兄は盛大にむせた。
「ぶえっ……」
「あーあ」
咳をし続けるトナカイはとても滑稽だった。まるでサンタに虐待されているようだ。
「奏太はよくこんなもの吸えるな」
「慣れれば旨いよ。兄ちゃんもまた挑戦したくなったら言ってね」
そして兄の髪を撫でた。少し伸びてきたかもしれない。
「兄ちゃん、散髪どうしよう? 美容院に行くわけにもいかないしね」
「しばらく伸ばすか。大学のときはそうしてたし」
「そういえばそうだったね」
「でさ、そろそろこれ、取ってくれよ」
「うん。もういいか」
カチューシャを外してローテーブルに置いた。兄のこめかみには痕がついていた。僕は優しくそこをさすった。
「クリスマス、楽しみだね兄ちゃん。ケーキ予約しようかな」
「いいな。クリームくらいなら舐められそう」
生首とのパーティーを夢想しつつ、僕は風呂場に行って排水溝のネットを取り替えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます