17 額縁

 気分はそこそこといったところだが、身体が重かった。朝食代わりにチョコレートを食べて、ベッドに寝転んだ。


「奏太、映画観たい」

「はいはい」


 僕はタブレットを操作した。昔のノワール映画を兄は選んだ。僕も途中まで一緒に観たが、飽きてしまって、スマホを取り出した。映画が終わって、兄が尋ねてきた。


「何調べてるんだ?」

「額縁。兄ちゃんに似合うのないかなぁって」

「どういうことだよそれ」


 兄を肩に乗せ、画像を次々と開いていった。


「ほら、壁にこういうの飾っておいてさ。その前に兄ちゃんを置いてさ。そうしたら、絵になると思わない?」

「まあ、そうだな」


 弟の贔屓目かもしれないが、兄は顔立ちが整っている。生首になってから、その魅力は一層増した。


「奏太、この黒いのなんかいいんじゃないか。禍々しくて」

「そうかも。案外安いね。買っちゃおうっと」


 ゴシック調、というのか、何というのか。四角くて、四隅に飾りのある額縁を僕は購入した。兄は言った。


「飾られるのって変な感じだな」

「まあ、本来生首は観賞用ではないからね」

「じゃあ何なんだろう」

「本人にもわかんないなら誰にもわかんないよ」


 兄はふわぁとあくびをした。僕も眠くなってきた。兄を肩に乗せたまま、昼寝をすることにした。

 すると、夢を見た。まだ兄に身体があったときの夢だ。僕はベッドに押さえつけられ、兄を受け入れていた。

 目覚めると、兄はまだ寝ていた。日が落ちかけていた。僕の背筋に汗がつたっていたのがわかった。

 兄の身体をバラバラにしたのは、仮に掘り返されても身元がわかりにくくするためだったが、復讐の気持ちもあった。

 もう、兄は僕を犯すことはできない。生首を見て、そう安心した。僕は兄の鼻筋をつうっと指でなぞった。


「んっ……」

「ごめん、起こしちゃった?」


 兄は薄く目を開け、僕と視線がぶつかると、柔らかく微笑んだ。


「何だかいいな。目覚めて一番好きな人が側にいてくれるのって」

「うん、僕も。お腹すいたよ。食べてくるね」

「その後兄ちゃんのもよろしく」

「もちろん」


 僕はレトルトカレーを食べた。母の手作りのカレーを最後に食べたのはいつの頃だったか。僕も、もちろん兄もレシピを聞いていない。再現することは叶わない。

 そして、あの額縁が届いて、兄の定位置ができたのは、もう何日か後の話だ。

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